『きっと ここが帰る場所』 『ブラック・ブレッド』 『星の旅人たち』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『きっと ここが帰る場所』 パオロ・ソレンティーノ

注目のイタリア人監督パオロ・ソレンティーノ(『愛の果てへの旅』『イル・ディーヴォ』)がショーン・ペンと組んで作り上げた新作。隠遁生活を送りながらもゴスメイクを欠かさないかつてのロックスター、シャイアン(ショーン・ペン)が、父親の死をきっかけにナチスの戦犯を追いかけるというようなストーリーを書いても、なんのことだかわからないだろうし、この映画の独特の世界は伝わらないだろう。

非常にユニークな感性と緻密な計算によって構築された世界は、どのようなところに反応するかによって印象も変わってくるはずだ。筆者はハル・ハートリーとかウェス・アンダーソンをちょっと連想したりしたが、それよりもここでは音楽のことに触れておきたい。

といっても、デイヴィッド・バーンやトーキング・ヘッズの曲<This Must Be the Place>のことではない。確かに、映画のタイトルもそこからとられ、劇中でもバーンがプレイしているのでこの曲はいちばん目立つ。しかし他にも個人的にやたらと印象に残る音楽が使われているのだ。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『灼熱の魂』 レビュー



Review

物語の力――
偶然と必然の鮮やかな反転

カナダ・ケベック州出身の異才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品が日本で公開されるのは、『灼熱の魂』が二本目になる。最初に公開されたのは『渦』(00)という作品だった。その『渦』のヒロインであるビビアンは、大女優の娘で、25歳にしてブティックのチェーンを経営し、マスコミの注目を集めている。

彼女の人生は傍目には順風満帆に見えるが、実際には経営に行き詰っているうえに、中絶手術を受けたばかりで精神的に不安定になっている。そんな彼女は、深夜に帰宅する途中で轢き逃げをしてしまい、被害者が死亡したことを知って、罪悪感に苛まれる。

この映画では、場所も時代も定かではない空間のなかで、いままさに切れ味鋭い刃物で命を奪われようとしている醜い魚が、このヒロインの物語の語り部となる。ヒロインの世界には、水や死のイメージがちりばめられ、独特の空気を醸し出していく。

しかし、それ以上に印象に残るのが、「偶然」と「必然」の関係だ。苦悩するヒロインは自分の運命を偶然に委ねようとする。人気のない地下鉄のホームで、たまたま隣に座った男に誰も知らない真実を告白し、自首するかどうかを決めようとする。車ごと貯水池に飛び込み、自らの生死を水に委ねようとする。

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