『ジャッキー・コーガン』 『隣人 ネクストドア』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ジャッキー・コーガン』 アンドリュー・ドミニク

『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)のアンドリュー・ドミニク監督とブラッド・ピットが再び組んだ作品なので、当然、一筋縄ではいかない。筆者がチェックした限りでは、アメリカの評価は気持ちいいくらいに真っ二つに分かれている。大絶賛かボロクソか。

筆者は、ドミニク監督のアプローチが見えたところですんなりツボにはまる。ブログにも表れていると思うが、筆者はポスト・カトリーナのニューオーリンズに強い関心を持ち、それがどのように音楽や映画に表現されるかに注目してきた。

たとえば、クリスチャン・スコットの『アンセム』(07)、ダーティ・ダズン・ブラス・バンドの『What’s Going on』(06)、Ted Hearneの『Katrina Ballads』(10)、Hurray for the Riff Raffの『It Don’t Mean I Don’t Love You』(09)、ヴェルナー・ヘツォークの『バッド・ルーテナント』(09)、ロジャー・ドナルドソンの『ハングリー・ラビット』(11)、そして、最近の試写室日記に書いたばかりのベン・ザイトリンの『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)などだ。

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ジェームズ・マーシュ 『シャドー・ダンサー』 レビュー

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男同士のホモソーシャルな連帯と女たちの孤独と心の痛み

ジェームズ・マーシュ監督の『シャドー・ダンサー』の舞台は、1993年の北アイルランドとロンドンだが、その前に70年代前半に起こった悲劇を描くプロローグがある。当時まだ子供だったヒロインのコレットは、弟を喪うという悲劇によってIRAの一員として前線に立つことを宿命づけられる。

1993年、息子を育てる母親でもあるコレットは、ロンドンの地下鉄爆破未遂事件の容疑者として拘束される。そして彼女の前に現れたMI5(イギリス諜報局保安部)の捜査官マックから、息子と引き離された刑務所生活を送るか、内通者になるかの二者択一を迫られる。

コレットは悩みぬいた末に息子との生活を選ぶ。だが、マックは上司であるケイトの振る舞いに不自然なところがあるのに気づき、探っていくうちに、自分とコレットが難しい立場に立たされていることを悟る。ケイトと上層部は、すでに別の内通者“シャドー・ダンサー”を抱えていて、その人物を守るためにコレットをスケープゴートにしようとしていた。

監督のジェームズ・マーシュは、プレスでは『マン・オン・ワイヤー』が代表作として強調されているようだが、筆者にはなんといっても『キング 罪の王』だ。

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アンドレア・セグレ 『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』 レビュー

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単に社会的な要素を加味することと、すべて見えていながら滲ませるだけに止めることの違い

アンドレア・セグレ監督の劇映画デビュー作『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』の舞台は、ヴェネチアの南、ラグーナ(潟)に浮かぶ漁港キオッジャだ。物語は、町の片隅に店を構える“パラディーゾ”というオステリアを中心に展開していく。

ヒロインは、その店で働くことになった中国系移民のシュン・リー。これまで縫製工場で働いていた彼女は、戸惑いながらも常連の男たちの好みを覚え、次第に場に溶け込んでいく。常連客のひとり、語呂合わせが得意なことから“詩人”と呼ばれる老漁師ベーピは、そんな彼女に関心を持ち、言葉を交わすようになる。

ベーピはもう30年もこの漁港に暮らしているから、地元民のように見えるが、実は彼もまた故郷を喪失したディアスポラだ。彼の故郷はチトーの時代のユーゴスラビアで、おそらくはチトーの死後、解体に向かうユーゴを離れ、キオッジャに流れてきたものと思われる。

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ミヒャエル・ハネケ 『愛、アムール』 レビュー

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“時間の芸術”の王国を去る――ハネケの厳格さと豊かな想像力が集約された美しい結末

ミヒャエル・ハネケの新作『愛、アムール』の主人公であるジョルジュとアンヌは、ともに音楽家の老夫婦だ。ふたりはときに教え子たちのリサイタルに足を運び、音楽を引き継いだ娘夫婦や孫の成長を見守り、悠々自適の老後を過ごしている。

だが、ある日突然、アンヌが病の発作に見舞われ、手術も失敗に終わる。彼女は不自由な身体になり、着実に衰弱していく。ジョルジュは、「二度と病院に戻さないで」というアンヌの願いを聞き入れ、妻を献身的に支えようとする。

この映画には注目すべき点がふたつある。ハネケ作品の登場人物は、制度やそれに類する見えない力に規定されている。

たとえば、『ピアニスト』(01)のヒロイン、ピアノ教授のエリカの場合は、クラシック音楽の伝統や制度だ。ハネケはそこに男性優位主義が潜んでいると見る。だから彼女は精神的には男であり、その倒錯的な行動からわかるように欲望を規定されている。

『隠された記憶』
(05)の主人公、書評番組のキャスター、ジョルジュの場合は、とりあえず“編集”といえる。この映画では、番組のセットと彼の自宅の居間がダブって見える。彼の人生もまた、番組と同じように巧妙に編集され、それが辛い記憶の忘却を可能にしている。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/03/07

週刊オススメ映画リスト

今回は『メッセンジャー』『愛、アムール』『魔女と呼ばれた少女』『野蛮なやつら/SAVAGES』(順不同)の4本です。

『メッセンジャー』 オーレン・ムーヴァーマン

今回のリストのなかで、この作品についてはノーマークという人が少なくないのではないでしょうか。2009年製作の作品ですが、いろいろ賞にも輝いていますし、正直、なぜすぐに公開されなかったのか不思議に思いました。

イラク戦争という題材については、『告発のとき』『ハート・ロッカー』『グリーン・ゾーン』『バビロンの陽光』『フェア・ゲーム』『ルート・アイリッシュ』など、様々な監督が様々な切り口から描いていますが、これはその盲点をつくような作品といっていいでしょう。

戦死者の遺族に訃報を伝える任務を負うメッセンジャーの世界が描かれています。ベン・フォスターとウディ・ハレルソンがメッセンジャーに、サマンサ・モートンが夫を喪った母親に扮しています。出番は多くないですが、スティーヴ・ブシェミも息子を喪った父親の役で出てきます。

「CDジャーナル」2013年3月号の新作映画のページでレビューを書いています。こういう映画はもっと注目されていいと思います。

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