カリン・ペーター・ネッツアー 『私の、息子』 レビュー

Review

母と息子から浮かび上がるルーマニアの未来

■悩みの種である息子

カリン・ペーター・ネッツアー監督にとって3作目の長編となる『私の、息子』は、ルーマニアの首都ブカレストに暮らす裕福な建築家/舞台装置家コルネリアの誕生パーティの場面から始まる。それは各界の名士が集う華やかなパーティだが、彼女の一人息子バルブの姿はない。

コルネリアには、30歳を過ぎても道が定まらない息子が悩みの種になっている。そのバルブは親に与えられた家でシングルマザーの恋人カルメンと暮らし、母親の顔を見れば悪態をつき、実家に寄り付こうとしない。そんなある日、バルブがスピードの出し過ぎで交通事故を起こし、子供を死なせてしまう。そこでコルネリアは、人脈や賄賂などを使い、あらゆる手段に訴えて息子の刑務所行きを回避しようとする。

息子を溺愛する母親と自立できない息子をめぐる物語は決して珍しくはない。しかし、ネッツアー監督が切り拓く世界は、他のルーマニア・ニューウェーブの作品と同じように、この国の歴史や社会と密接に結びついている。

続きを読む