『tirtha』 by vijay iyer with prasanna & nitin mitta

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ジャズ・ピアニスト、アイヤーがインド音楽に接近したわけは?

遅ればせながら、ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)の『tirtha』(2011)である。前から聴いてはいたが、まだ取り上げていなかった。アイヤーのディスコグラフィのなかではかなり異色の作品といっていいだろう。

いまのニューヨークのジャズ界で目立つのが、アイヤーやRudresh Mahanthappa、Rez Abbasiといったインド亜大陸にルーツを持つミュージシャンたちだ。但し、アイヤーとMahanthappaやAbbasiでは、音楽の方向性が少し異なるように見える。

tirtha (2011)

Mahanthappaは、南インドの古典音楽にサックスを導入して独自の世界を確立したKadri Gopalnathに大きな影響を受け、このインドの巨匠とコラボレーションを展開する『Kinsmen』(08)や、パキスタンのカラチ生まれのAbbasiとタブラ奏者Dan WeissをメンバーとするIndo-Pak Coalition名義の『Apti』(08)で、インド音楽へと接近した。

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『math or magic』 by evan weiss

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“Soundscapes”というインタビュー記事のタイトルにひかれて…

Evan Weissの『math or magic』というアルバムが出ているのは知っていたが、まったくノーマークだった。ところが、all about jazzで“Soundscapes”というタイトルがつけられたWeissのインタビュー記事を見つけて、好奇心がもたげた。

情報をいろいろ頭に詰め込んでから聴くのがいやなので、記事は読まずにまず音を手に入れた。Weissはトランペッター/コンポーザーだが、なるほど面白いことをやっている。

math magic

"math or magic" by Evan Weiss

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、フルート、バスーン、マリンバなどを含む大編成のアンサンブルを操り、ジャズ、クラシック、ミニマル・ミュージックなどが融合したサウンドスケープを作り上げている。全13曲の構成にも仕掛けがほどこされている。

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『’Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)』 by Emanuele Arciuli



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20の<Round Midnight>と、ひとつの<Round Midnight>

ジャズ史のなかで異彩を放つ唯一無二のピアニスト、セロニアス・モンク。これまで様々なミュージシャンたちが、モンクのトリビュート作品を発表してきたが、Emanuele Arciuliの『’Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)』は、そのどれとも似ていない。まったく異色の作品といえる。

Emanuele Arciuliは、イタリアのクラシックのピアニストだ。トリビュート作品では当然、モンクの生み出した様々な楽曲が取り上げられるはずだが、このアルバムでは、モンクの代表曲にしてスタンダード・ナンバーになっている<Round Midnight>だけだ。

round midnight

'Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)

Arciuliは、これまで一緒に仕事をしてきたアメリカとヨーロッパの作曲家たちに協力を求め、それぞれの作曲家が<Round Midnight>の同じテーマの変奏を試みた。

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『テザ 慟哭の大地』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『テザ 慟哭の大地』 ハイレ・ゲリマ

エチオピア出身でアメリカ在住のハイレ・ゲリマ監督が、祖国の歴史やディアスポラ体験を、現実と記憶や悪夢を自在に交錯させながら描いた力作。

作品そのものについてはまたあらためて書くつもりだが、伝統的な音楽にエレクトロニックな要素を取り入れたり、60~70年代のジャズを意識したスタイルを盛り込んだりと、誰が音楽を手掛けているのか興味をおぼえつつエンド・クレジットを見ていたら、いまをときめくジャズ・ピアニストのヴィジェイ・アイヤーとJorga Mesfin(“ethio jazz”を掲げるバンドWudasseに参加していたサックス奏者で、“The Kind Ones: Degagochu”というアルバムを出している)だった。

作品とともにアイヤーとMesfinの音楽も評価されているようで、カルタゴやドバイの映画祭では音楽賞を受賞している。

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