『ヘッドショット』 『アルバート・ノッブス』 『運命の死化粧師』 試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。

『ヘッドショット』 ペンエーグ・ラッタナルアーン

『地球で最後のふたり』や『インビジブル・ウェーブ』のラッタナルアーン監督作品。主人公の過去と現在、記憶と真実が複雑に入り組むノワール。

タイ・バンコクのヒットマン、トゥルは任務遂行中に頭を撃たれる。昏睡状態から目覚めた彼には世界が逆さまに見える。逆さまなのは世界なのか彼なのか。

ラッタナルアーンは、様々にスタイルを変えながら「因果応報」や「贖罪」というテーマを掘り下げてきたが、それは確かにこの作品にも引き継がれている。独自のハードボイルドな美学が際立っている。

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イエジー・スコリモフスキ・インタビュー



トピックス

私の実体験とか思いが、何らかのかたちで表れていることは間違いない

17年ぶりに監督した『アンナと過ごした4日間』(08)で見事な復活を遂げたポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ。待望の新作『エッセンシャル・キリング』(10)では、アフガニスタンにおける戦闘から始まる過酷なサバイバルが描かれる。バズーカ砲で米兵を吹き飛ばした主人公は、米軍に拘束され、拷問を受け、他の捕虜とともに軍用機と護送車でどこかに移送される。ところが、深夜の山道で事故が起こり、彼だけが逃走する。

『アンナ~』と同じように、ポーランドの自宅の周辺を舞台にして、好きなように作れるのならもう1本撮ってもいいと思うようになった。自宅の近くに滑走路を備えた秘密の軍事施設と噂されるものがあることは知っていたが、そういう政治的な題材は、『手を挙げろ!』のことがあるので(※かつて彼はこの作品でスターリン批判をしたとされてポーランドを追われることになった)、考えないようにしていた。ところがある晩、雪の中を運転している時に、その滑走路の近くで道を飛び出してしまった。横転まではいかなかったが、映画の逃走の場面が急に思い浮かび、脚本を書き出した。でも後でポーランドでは雪が足りないことに気づき、ノルウェーに行って-35度のなかで撮影することになった

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スサンネ・ビア 『未来を生きる君たちへ』 レビュー



Review

負の連鎖から生まれる復讐と自然、人間中心主義からの脱却

スサンネ・ビアの『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』では、デンマークの日常とアフガニスタンの紛争地帯やインドのスラムが結びつけられていた。新作の『未来を生きる君たちへ』でも、デンマークの田舎町に暮らし、アフリカの難民キャンプに派遣される医師アントンを通して、異なる世界が結びつけられる。だが、ふたつの世界の位置づけには大きな違いがある。

前者ではそんな構成が、豊かで安定した社会と貧しく混沌とした社会を象徴し、物語の前提となっていた。しかしこの新作では、最初からそんな図式が崩れている。

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『家族の庭』 『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『家族の庭』 マイク・リー

マイク・リーの作品は観ていることは観ているがあまり好きになれなかった。観ているうちに演劇と映画と一体どちらが大切なのだろうかという疑問がもたげてくる。彼の映画には、演劇が映画の上位にくる瞬間がある。だから「映画」に集中できないのだ。

『ヴェラ・ドレイク』もとてもしんどかったので、気が重かったのだが、この新作ははじめて心から酔うことができた。役者が素晴らしいことは最初からわかっているが、芝居でごりごり押してこない。空間のとらえ方とかカメラの動きに「映画」が感じられる。

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『マネーボール』 『永遠の僕たち』 試写



試写室日記

本日は試写を2本。

『マネーボール』 ベネット・ミラー

貧乏球団アスレチックスを常勝軍団に作り変えた男ビリー・ビーンをブラッド・ピットが演じる。監督のベネット・ミラーは『カポーティ』につづいて実在の人物を描くことになる。そのミラーの人物に対する鋭い洞察は『カポーティ』でも際立っていたが、新作でもフラッシュバックを交えながら、主人公の複雑な内面に迫っていく。

そんな監督のスタンスと、『ジェシー・ジェームズの暗殺』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『ツリー・オブ・ライフ』などで磨きがかかったブラッド・ピットの眼差しや表情のパフォーマンスが素晴らしくマッチしている。スポーツを題材にした映画でありながら、フィールドの熱狂とは違うところでしっかり見せる。冒頭からグイグイ引き込まれた。

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