ミシェル・ゴンドリー 『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』 レビュー

Review

ヴィアンの『うたかたの日々』のイマジネーションと残酷さをめぐって

『ウィ・アンド・アイ』につづくミシェル・ゴンドリーの新作は、夭逝の作家ボリス・ヴィアンの悲痛な恋愛小説『うたかたの日々』の映画化だ。プレスのインタビューでゴンドリーは、原作を最初に読んだ時期について、「10代の頃だね。兄が最初に読んで、僕たち弟に薦めたんだ。間違いなく兄は『墓に唾をかけろ』とか、ボリス・ヴィアンがヴァーノン・サリバン名義で書いた、もっとエロティックな小説から読み始めたはずだね」と語っている。その昔、筆者もヴァーノン・サリバン名義のものから読み出したような気がする。

『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』の舞台はパリで、時代背景は曖昧にされている。それなりの財産に恵まれ、働かなくても食べていける若者コランは、パーティで出会った美しいクロエと恋に落ちる。ふたりは、友人たちに祝福され盛大な結婚式を挙げるが、やがてクロエが、肺のなかに睡蓮が生長する奇妙な病におかされていることがわかる。その治療のために財産を使い果たしたコランは、働きだすが、彼らの世界は徐々に光と精気を失い、荒廃していく。

続きを読む

『日本の悲劇』 レビュー & 小林政広監督インタビュー



News

孤立する家族、無縁社会、格差、3.11の悲劇、そして即身仏

遅くなってしまいましたが、8月31日(土)より公開中の小林政広監督の新作『日本の悲劇』に関する告知です。

東京都内で111歳とされる男性のミイラ化した遺体が見つかり、家族が年金を不正受給していた事件は大きな注目を集めました。小林監督が『日本の悲劇』を作るうえでインスパイアされたのは、この年金不正受給事件です。

主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子です。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活しています。そして、自分が余命幾ばくもないことを知った老父は、自室を閉鎖し、食事も水も摂らなくなります。

続きを読む

『ローン・レンジャー』 劇場用パンフレット

News

『パイレーツ』3部作とは異なるアプローチで挑んだジェリー×ゴア×ジョニーの会心作

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、8月2日(金)より公開中の『ローン・レンジャー』の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでレビューを書いています。

この『ローン・レンジャー』を、ジェリー・ブラッカイマーとゴア・ヴァービンスキーとジョニー・デップという『パイレーツ』シリーズのチームが作り上げた新たなエンターテイメント大作と受け止めることはもちろん間違いではないのですが、三者のバランスは明らかに『パイレーツ』とは違います。

続きを読む

キム・ギドク 『嘆きのピエタ』 レビュー



Review

復活したキム・ギドクの変化、
異空間へと飛躍しない理由とは

『悲夢』の撮影中に女優が命を落としかける事故が起こったことをきっかけに、失速、迷走していた韓国の鬼才キム・ギドク。

ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた新作『嘆きのピエタ』では、そんな監督が復活を告げるだけではなく、興味深いスタイルの変化を見せる。

天涯孤独で冷酷な取り立て屋イ・ガンドの前にある日、母親を名乗る謎の女が現れる。彼は戸惑いつつも女を母親として受け入れていくが、果たして彼女は本当に母親なのか。そしてなぜ突然、彼の前に現れたのか。

続きを読む

『イノセント・ガーデン』 映画.com レビュー+ベルイマン

News

宿命と意志がきわどくせめぎ合う、パク・チャヌクの揺るぎない世界

「映画.com」の5月22日更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで、5月31日公開のパク・チャヌク監督ハリウッド・デビュー作『イノセント・ガーデン』のレビューを書いています。

脚本を書いたのはTVシリーズ「プリズン・ブレイク」でブレイクしたウェントワース・ミラーですが、『オールド・ボーイ』『渇き』にも通じるところがあるパク・チャヌクの世界になっています。細部へのこだわりがすごいです。

ドラマに漂う冷たく、謎めいた空気と共鳴するクリント・マンセル(+フィリップ・グラス)の音楽、ヒロインが履く靴へのフェティシズム、触感まで生々しく伝わってくるかのような視覚や音響の効果など、映画が終わったあとはしばらくゆらゆらした感覚が残ります。

続きを読む