『幸せパズル』 劇場用パンフレット

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アルゼンチン映画界で最も期待される女性監督のデビュー作!

ゴンサロ・カルサーダの『ルイーサ』、ファン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』、東京国際で公開されたディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』など、最近のアルゼンチン映画にはそそられるものがある。12月に公開予定のダニエル・ブスタマンテの『瞳は静かに』も気になっている(こうしてみるとその邦題では「瞳」という言葉が目立つが単なる偶然なのか)。

こうした作品のタイプやスタイルはいろいろだが、非常に大胆に、あるいは実に巧妙に負の歴史、伝統、現代の社会などが描き出されている。そして、明日(10月1日)から公開になる『幸せパズル』も注目のアルゼンチン映画。新鋭ナタリア・スミルノフのデビュー作で、劇場用パンフレットに「マチスモの世界の中で、主婦・マリアが求めたもの、見つけたもの。」という作品評を書いています。

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アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 『BIUTIFUL』 レビュー

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複数の境界が交差する場所に立つ男、その孤独な魂の震え

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの新作『BIUTIFUL』は、表現や構成がこれまでの監督作とは違う。複数の物語を断片化し、再構築するようなスタイルは見られない(『アモーレス・ペロス』『21グラム』、イニャリトゥとコンビを組んでいたギジェルモ・アリアガ『あの日、欲望の大地で』のレビューをお読みいただければ、筆者がこれまでの彼のスタイルに好感を持っていなかったことがおわかりいただけるだろう)。

主人公はスペインの大都市バルセロナの底辺で生きる男ウスバル。妻と別れ、男手ひとつで二人の子供を育てている彼がある日、末期がんで余命2ヶ月と宣告される。

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『スリーデイズ』 劇場用パンフレット



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ラッセル・クロウ主演、ポール・ハギス監督最新作!

フランス映画『すべて彼女のために』(ビデオ・タイトル:ラスト3デイズ~すべて彼女のために)をポール・ハギスがリメイクした『スリーデイズ』が本日(9月23日)より公開になります。サスペンス・アクションといわれるような題材でも、ハギスは独自の視点を埋め込み、個人と時代や社会の関係を浮き彫りにしています。

この映画の劇場用パンフレットで、「代償は高くても自由を求める意味を考える」というタイトルのコラムを書いています。『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』『告発のとき』などとの繋がりにも言及したポール・ハギス論になっています。劇場で作品をご覧になったらぜひチェックしてみてください。

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ジョエル&イーサン・コーエン 『シリアスマン』 レビュー

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不運を嘆き、考え込むのではなく、笑いに転化して前に進む

コーエン兄弟の『シリアスマン』は、これまでの彼らの作品と違った印象を与えるかもしれない。それは、ユダヤ系の家族やコミュニティのドラマにこの兄弟のバックグラウンドが反映されているからだ。しかし、ユダヤの文化や慣習を理解していなければ楽しめないということはない。この映画は、ひとつのことを頭に入れておけば、たっぷり楽しむことができる。

たとえば、ユダヤ文学には、シュレミール(schlemiel)やシュリマゼル(schlemazel)というように表現される人物像が頻繁に登場する。それらは、なにをやっても裏目に出るドジな人物や災いばかりが降りかかるどうにもついてない人物を意味する。コーエン兄弟にとってこうした人物像は身近なものであるはずだ。

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モハメド・アルダラジー 『バビロンの陽光』 レビュー



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息子・父親を探す祖母と孫の旅から浮かび上がるものとは

バグダッドに生まれ、ヨーロッパで映画・テレビの制作を学んだモハメド・アルダラジー監督は、2003年のフセイン政権崩壊後、イラクに帰国し、祖国の現実を反映した作品を撮りだした。『バビロンの陽光』は、2作目の監督作になる。

フセイン政権崩壊から三週間後、イラク北部のクルド人地区に暮らす祖母は、戦地から戻らない息子イブラヒムを探すため、12歳の孫アーメッドと南に向かう。イブラヒムは1991年の湾岸戦争で戦場に送られた。だからアーメッドは父親の顔も知らない。

ふたりが南に向かうのは、戦争でイブラヒムに命を助けられた友人が祖母に宛てた手紙に、彼が南部のナシリア刑務所に収容されていると書かれていたからだ。しかし、戦争からすでに10年以上が過ぎている。

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