フローリア・シジスモンディ 『ランナウェイズ』レビュー

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壊れた家族とバンドという擬似家族の狭間で――もうひとつの『ブギーナイツ』

70年代に一世を風靡したガールズバンド“ランナウェイズ”を題材にしたこの映画で、まず注目すべきなのはサンフェルナンド・ヴァレーという舞台だろう。ロサンゼルスの郊外に広がるこの地域は、サバービアというテーマとも結びつきながら、映像作家の想像力を刺激し、アメリカのひとつの象徴として描かれてきた。

スティーヴン・スピルバーグは、『E.T.』をここで撮影した。ティム・バートンは『シザーハンズ』のプレスで「この映画は、ぼくの育った映画の都バーバンクの想い出がいっぱいつまっている」と語っているが、そのバーバンクもこの地域の縁にある。

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『ブルーバレンタイン』 『四つのいのち』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ブルーバレンタイン』 デレク・シアンフランス

ミシェル・ウィリアムズとライアン・ゴズリングの演技は素晴らしいが、それだけで映画が支えられているように見えてしまう。企画が暗礁の乗り上げ、11年間も脚本の改稿を重ね、監督の頭のなかで作品のイメージが固まってしまうと、それが実際の現場で足枷になってしまうことが少なくない。

『四つのいのち』 ミケランジェロ・フランマルティーノ

アピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』のようにフィクションを盛り込み、人間中心主義から脱却しアニミズムの世界を切り拓く映画でありながら、レイモン・ドゥパルドンの『モダン・ライフ』のようなドキュメンタリーを観ているような錯覚におちいるところが実にユニーク。

一尾直樹 『心中天使』レビュー



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携帯やネットが生み出す形而上学的変異によって人と人の繋がりや世界はどう変わるのか

『心中天使』(10)は、一尾直樹監督にとって劇場デビュー作『溺れる人』(00)に続く2作目の長編劇映画となる。

名古屋を拠点に活動する一尾監督の作品には共通点がある。まず、地域性が前面に出てくることがない。ドラマの背景になるのは、均質化した社会の日常だ。そしてもうひとつ、平凡な日常のなかに、常識的にはあり得ないと思えるようなことが起こる。

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園子温 『冷たい熱帯魚』レビュー



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演じることが不可能な極限まで追い詰められた男がむきだしにするもの

家族の不和を抱えつつ、小さな熱帯魚店を営む主人公・社本が、同業者で人の良さそうな村田と知り合ったことで、想像を絶する破滅的な世界に引きずり込まれていく。

園子温監督の『冷たい熱帯魚』は、『紀子の食卓』や『愛のむきだし』で突き詰められてきた家族の世界にひとつの区切りをつける作品といえる。

筆者が『紀子の食卓』公開時に園監督にインタビューしたとき、彼は“家族”についてこのように語っていた(園子温インタビュー)。

「日本では、伝統的な家族の在り方というものが、古くからあるように見せかけているけれども、本当はないと思うんですよ。それがあるのなら、いつから崩壊したのか逆に問いただしたい。そんな曖昧さのなかで、幸せな家族の在り方があると信じ込み、家族を形成していくことの危うさを表現したかった」

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