ミヒャエル・ハネケ 『白いリボン』レビュー



Review

独自の視点で向き合うナチスとファシズム

■■物語の舞台設定とドイツ帝国成立の過程■■

ミヒャエル・ハネケは、精緻な考察と斬新な表現でヨーロッパの歴史や社会の暗部を抉り出してみせる。『ピアニスト』(01)に登場するピアノ教授のヒロインは精神的に男になっているが、それは伝統や制度に潜む男性優位主義に呪縛され、欲望を規定されているからだ。『隠された記憶』(05)に描き出される人気キャスターの忘却と不安、過剰な自己防衛は、歪曲され、黙殺されたマグレブ移民弾圧の歴史に起因している。

新作『白いリボン』ではハネケの鋭敏な感性がさらに研ぎ澄まされているが、それは彼が見出した題材と無関係ではないだろう。ミュンヘンに生まれ、オーストリアで育ち、近年はフランスを拠点に活動してきたハネケは、この新作でドイツと向き合い、独自の視点からナチスやファシズムに迫っている。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/01/20



週刊オススメ映画リスト

今週は『完全なる報復』、『ソウル・キッチン』、『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』、『フード・インク』の4本です。

『完全なる報復』 F・ゲイリー・グレイ

突然自宅に押し入ってきた二人組の強盗犯に腹部を刺され、妻と娘を殺害されたエンジニアのクライド(ジェラルド・バトラー)。フィラデルフィアで飛び抜けた有罪率を誇る敏腕検事ニック(ジェイミー・フォックス)は、証拠が十分ではないと判断、主犯格の男に極刑を求めず司法取引を行い、数年の禁固刑の有罪を勝ち取る。

裁判からあっさり10年が経過し、犯人たちが残酷な方法であっさりと殺害され、クライドが拘束される。その後にいったいどんな物語が展開していくのか。このような事件から始まる物語は、“復讐”か“喪”へと向かう。アメリカ映画であれば圧倒的に復讐だが、この映画はさらにその先に踏み出す。

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ファティ・アキン『ソウル・キッチン』レビュー



Review

ハンブルクにあるさえないレストランがアジールに変わるとき

トルコ系ドイツ人のファティ・アキンは、ベルリン国際映画祭グランプリを受賞した『愛より強く』やカンヌ国際映画祭脚本賞を獲得した『そして、私たちは愛に帰る』によって、世界的な注目を集める監督になった。その2作品では、トルコ系ドイツ人というバックグラウンドと結びつくテーマがシリアスに掘り下げられていたが、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・ヤングシネマ賞をW受賞した新作『ソウル・キッチン』には、様々な意味で2作品とは異なる方向性が見られる。

この映画は、ハンブルクにあるレストラン“ソウル・キッチン”を中心に展開していくコメディだ。店のオーナー兼シェフは、ギリシャ系のジノス(アダム・ボウスドブコス)。彼が倉庫を買い取り、自分で配管までした店のメニューは、誰でも料理できる冷凍食品ばかりであり、常連客はいるものの、繁盛しているとはいいがたい。

soul kitchen main

2011年1月22日(土)よりシネマライズほか全国順次ロードショー!

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