『Deadmalls & Nightfalls』 by Frontier Ruckus

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閉鎖された巨大モールの記憶、サバービアの風景としての廃墟

茨城の取手を拠点に、「郊外」をテーマにした作品を撮る佐々木友輔監督の『新景カサネガフチ』(10)では、ショッピングセンターや東急ストア取手店の閉店・閉鎖のエピソード、その記憶を通して、人と風景の関係が掘り下げられていた。

ミシガン出身のバンド、Frontier Ruckusの音楽の背景にも“サバービア”がある。彼らが昨年リリースした『Deadmalls & Nightfalls』のジャケットには、ミシガンのWaterford Townshipにあったショッピングモール、Summit Place Mallの写真が使われている。

『Deadmalls & Nightfalls』 (2010)

Summit Place Mallは1963年に誕生し(最初はPontiac Mallと呼ばれていた)、2009年にその長い歴史に幕をおろした。↓これらの映像には、巨大モールの栄枯盛衰を見ることができるだろう。

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『There He Unforeseen』 by Hallock Hill

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陽光が差し込む板壁の向こうとこちらにはどんな世界が広がっているのか

Hallock HillことTom Leckyの『The Union』については、以前にアルバム日記で取り上げたが、早くも新しいアルバム『There He Unforeseen』が登場した。『The Union』のジャケット・アートは、巨大なシャンプレーン湖にたつ波のイメージだったが、こちらは自然そのものではなく、小屋の板壁の隙間から陽光が差し込むイメージだ。そして中身も、楽器やスタイルなど異なる空間が広がっている。

there he unforeseen

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Official videoclip for Arborea “A Little Time”

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ふたつの<A Little Time>、美しい自然とポルトガルの路地裏

アメリカのなかでも広大な森林地帯を抱えるメイン州。Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットArboreaの音楽の背景には、そんな豊かな自然がある、ということは前に書いた。

新作『Red Planet』の最後に収められた<A Little Time>のPVが2本アップされていた。1本目は、La Foret des Renardsが手がけたPV。2本目はポルトガルのbodyspace.netのために作られたPV。映像のコンセプトはまったく違うだけでなく、曲の音源も違うので、聞きくらべると面白い。

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『Live at Sint-Elisabethkerk』 by Balmorhea

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ベルギーの教会に広がるテキサスのサウンドスケープ

Balmorheaは、テキサス州オースティンを拠点に活動するインストゥルメンタル・アンサンブル。2006年にRob LoweとMichael Mullerによって結成された。ギター、バンジョー、ピアノなどを操るこのふたりに、ヴァイオリンのAisha Burns、チェロのDylan Rieck、ダブルベースのTravis Chapman、ドラムスのKendall Clarkが加わった6人組である。

筆者は固有の場所性が失われていく状況のなかで、現実に縛られない領域や次元にどのように場所性が見出され、サウンドスケープが生み出されるのかに関心を持っている。もちろん誰もがそれを意識して音楽を作っているわけではないが、Balmorheaの場合はかなり自覚的であるように思う。

たとえば、フィールド・レコーディングとインストゥルメンタルが高度に融合した2作目の『River Arms』では、スモールタウンで過ごした子供の頃の記憶や<The Summer>や<The Winter>というタイトルに表れている季節に対する感覚が場所性に結びついていた。

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『The Union』 by Hallock Hill

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生まれた場所、アップステイトへのオマージュ

Hallock Hillは、Tom Leckyのペンネームで、そこには彼が生まれたニューヨーク州のアップステイトの田園地帯へのオマージュが込められているという。

アルバム『The Union』は、ギターのループや即興を思わせるメロディなどを重ねて作られた美しいサウンドスケープだ。

Hallock Hillのブログを読むと、彼がRichard Skeltonのファンであることがわかる。その音作りも、ただ自然や場所を意識するだけではなく、風景にまつわる記憶を掘り下げ、隠れた歴史を音で表現しようとしているところが、Skeltonに通じるものがある。

union

The Union (2011)

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