Official videoclip for Arborea “A Little Time”

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ふたつの<A Little Time>、美しい自然とポルトガルの路地裏

アメリカのなかでも広大な森林地帯を抱えるメイン州。Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットArboreaの音楽の背景には、そんな豊かな自然がある、ということは前に書いた。

新作『Red Planet』の最後に収められた<A Little Time>のPVが2本アップされていた。1本目は、La Foret des Renardsが手がけたPV。2本目はポルトガルのbodyspace.netのために作られたPV。映像のコンセプトはまったく違うだけでなく、曲の音源も違うので、聞きくらべると面白い。

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『Live at Sint-Elisabethkerk』 by Balmorhea

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ベルギーの教会に広がるテキサスのサウンドスケープ

Balmorheaは、テキサス州オースティンを拠点に活動するインストゥルメンタル・アンサンブル。2006年にRob LoweとMichael Mullerによって結成された。ギター、バンジョー、ピアノなどを操るこのふたりに、ヴァイオリンのAisha Burns、チェロのDylan Rieck、ダブルベースのTravis Chapman、ドラムスのKendall Clarkが加わった6人組である。

筆者は固有の場所性が失われていく状況のなかで、現実に縛られない領域や次元にどのように場所性が見出され、サウンドスケープが生み出されるのかに関心を持っている。もちろん誰もがそれを意識して音楽を作っているわけではないが、Balmorheaの場合はかなり自覚的であるように思う。

たとえば、フィールド・レコーディングとインストゥルメンタルが高度に融合した2作目の『River Arms』では、スモールタウンで過ごした子供の頃の記憶や<The Summer>や<The Winter>というタイトルに表れている季節に対する感覚が場所性に結びついていた。

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『Bon Iver, Bon Iver』 by Bon Iver



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場所に対する感覚、個人的な体験、音楽的な記憶が混ざり合うサウンドスケープ

Bon IverことJustin Vernonは、場所に対する独特の感覚を培い、サウンドスケープを作り上げている。彼に大きな成功をもたらした『For Emma, Forever Ago』(08)は、雪に閉ざされた森で生まれた。

バンドの分裂や彼女との破局、体調不良などの重荷を背負ったVernonは、2006年の冬に父親が所有するウィスコンシンの山小屋にひとりでこもった。ギターやドラム、ホーン、マイクを持ち込んでいた彼は、そこで自己の音楽的世界を見出した。

以前ブログで取り上げたArboreaは、夫婦のユニットで、メイン州の自然のなかに暮らし、自然にインスパイアされて独自の世界を切り拓いているが、彼らはあるインタビューで冬が最も刺激をもたらすと語っていた。厳しい寒さのなかで孤立すること、計り知れない孤独が刺激になるというのだ。

『For Emma, Forever Ago』 (2008)

もちろん、冬の森で計り知れない孤独を味わうことが、必ずインスピレーションをもたらすわけではない。ウィスコンシンの自然のなかで育ったVernonは、山々や湖によって感性を培われた。2006年の冬に山小屋にこもったときには、2頭の鹿を仕留め、食料にしていたという。


Written by Justin Vernon with Andre Durand and Dan Huiting
Directed by Andre Durand and Dan Huiting
Produced by Daniel Cummings and Picture Machine Productions
Filmed in April 2011 in Fall Creek, WI

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『Wolf Notes』 by AR (Autumn Richardson and Richard Skelton)

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ランカシャーからカンブリアへ―スケルトンの新たな試み=AR

リチャード・スケルトン(Richard Skelton)の『Landings』についてはレビューをアップしたが、彼はその先にどのようなサウンドスケープを切り拓こうとしているのか。どこかのサイトのインタビューでは、A Broken Consort名義の新作を出すと語っていたような気もする。しかし一方では、これまでとは違う試みにも挑戦している。

ARはSkeltonの新たなプロジェクトだ。これはひとりの作業ではなく、ヴォーカリスト、Autumn Richardsonとのコラボレーションである。スケルトンの音楽では場所が重要な意味を持っている。これまでの作品ではその場所は、彼が暮らすランカシャーのWest Pennine Mooreや、家から遠くないところにあり、かつて農民が暮らした家屋の廃墟が残るAnglezarke Mooreだった。

●Type recordsによる『Wolf Notes』Stream
AR – Wolf Notes by _type

しかし、ARの『Wolf Notes』ではランカシャーからさらに北に向かう。カンブリア州にあるUlphaの風景、地名、動植物などにインスパイアされ、この土地へのオマージュになっている。

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『Red Planet』 by Arborea

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メイン州の豊かな自然、媒介としての音楽

『Red Planet』は、Arboreaのニューアルバムだ。Arboreaは、Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットで、メイン州を拠点に活動している。

たとえば、ニューオーリンズを拠点に活動するグループHurray for the Riff Raffや、このArboreaの音楽には、“メディア”という言葉がかつて持っていた意味を思い出させるような独特の響きを感じる。

加藤秀俊の『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』(中央公論新社、2009年)では、メディアが持っていた意味がこのように説明されている。「その原型になっているのは聖俗をつなぐ「霊媒」のことでもあったのだ。そのような意味での「メディア」は現代の文明世界でもけっして消滅したわけではない

『Red Planet』 (2011)

もちろん、たとえばすでにこのブログで取り上げているJana WinderenやRichard Skeltonの音楽にもそれは当てはまる。にもかかわらず、ここで特にHurray for the Riff RaffとArboreaに注目しようとするのにはわけがある。

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