ラース・フォン・トリアー 『メランコリア』 レビュー

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人間の在り方を原点から問い直す――鬼才トリアーの世界

ラース・フォン・トリアー監督の前作『アンチクライスト』は、うつ病を患ったフォン・トリアーがリハビリとして台本を書き、撮影した作品だった。新作の『メランコリア』も、「うつ病」の意味もある言葉をタイトルにしているように、彼のうつ病の体験と深く結びついている。

この映画は二部構成で、ジャスティンとクレアという姉妹の世界が対置されている。ジャスティンは心の病ゆえにこれまで姉のクレアに迷惑をかけてきたと思われる。そんな彼女は結婚を節目に新たな人生を歩み出そうとするが、パーティーの最中にうつ状態に陥り、夫も仕事も失ってしまう。

しかし、世界の終わりが現実味を帯びていく第二部では、二人の立場が逆転する。失うもののないジャスティンは落ち着きを取り戻し、家族がいるクレアは逆に取り乱し、自分を見失いかける。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/04/26

週刊オススメ映画リスト

今回は、『ル・アーヴルの靴みがき』『孤島の王』『ジョイフル♪ノイズ』の3本です。

『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ

『街のあかり』(06)以来、5年ぶりの新作。『ル・アーブルの靴みがき』試写室日記の方にいろいろ感想を書きましたので、まずはそちらをお読みください。

現在発売中の「CDジャーナル」2012年5月号に、「カウリスマキの神学」というタイトルで本作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。

試写室日記では、この新作でカウリスマキが新たな次元に踏み出していて、そこには昨年末に公開されたレイ・マイェフスキの『ブリューゲルの動く絵』(11)に通じる視点があるといったことを書きました。いったいどう繋がるのか首を傾げた方もいらっしゃるかもしれませんが、はったりをかましたわけではありません。「CDジャーナル」のレビューでは、『ブリューゲルの動く絵』も引用し、繋がりを明らかにしております。

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マリウス・ホルスト 『孤島の王』 レビュー

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銛を3本打っても死なない鯨の物語が世界を呑み込んでいく

マリウス・ホルスト監督のノルウェー映画『孤島の王』は、1915年、不適な面構えをした少年エーリングが、オスロ南方のバストイ島に上陸するところから始まる。外界と隔絶した島には、罪を犯した少年たちを収容する施設があった。

C19という番号を与えられたエーリングは、高圧的な院長と寮長への反抗や島からの脱走を繰り返し、その度に懲罰を課せられる。やがて彼の不屈の魂は、監視役の優等生オーラヴの心を動かし、島の秩序を揺るがしていく。

映画の冒頭には以下のような言葉が浮かび上がる。「バストイ島には1900年から1953年まで非行少年のための矯正施設が存在した。この物語は事実にもとづく」

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