『Natsukashii』 by Helge Lien Trio

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この北欧のジャズ・ピアニストの世界のとらえかたは独特では?

日本とアメリカでは、ノルウェーのジャズ・ピアニスト、ヘルゲ・リエン(Helge Lien)の認知度に大きな隔たりがある。日本では初期のアルバムから注目され、プロデュースにも乗り出すというように以前から認知されていたが、アメリカでは、前作『Hello Troll』(2008)が、all about jazz.comのレビューで、ほとんどのアメリカ人が知らないピアニストのアルバムとして紹介されていた。

今年リリースされたヘルゲ・リエン・トリオの新作は、アルバム・タイトルがそんな隔たりを象徴していると見ることもできる。“Natsukashii(懐かしい)”という日本語がタイトルになっているのだ。そのタイトル・ナンバーは、音の間といいメロディといい、私たちが馴染めるような楽曲になっている。

『Natsukashii』 (2011)

ただし、“Natsukashii”という言葉が、ごく普通に「懐かしい」を意味しているとは限らない。リエンの音楽については、スタイルやテクニックとは異なる部分で、世界のとらえかたに、どことなく個を超えているところがあるように思える。


たとえば、前作『Hello Troll』の“Troll”は北欧神話に出てくる妖精、あるいは巨人を意味する。

そういえばall music guideでAlex Hendersonのレビューにちょっと面白い記述があった。スカンジナビア諸国のミュージシャンで、アルバムにHello Trollというタイトルがついていたら、その人の作品をよく知らない人たちは、デスメタル、ブラックメタル、バイキングメタル、フォークメタルなどに関わる音楽だと受け止めるというのだ。

最近、北欧神話で思い出されるものといえば、ケネス・ブラナーの『マイティ・ソー』だ。メタルまではいかないが、アメリカに引き寄せられると、個や人間という枠組みにとらわれたものになるといえる。

リエンのトリオのアルバムは、『Hello Troll』からジャケット・アートが変化し、タイトルとアートと音楽の結びつきがより印象深いものになった。

『Hello Troll』 (2008)

『Hello Troll』のジャケットは、自然のなかにある見えないものを示唆している。では、『Natsukashii』のジャケットはどうだろうか。このアルバムは、タイトル・ナンバーの<Natsukashii>ではじまり、<Living in Different Lives>という意味深なタイトルの曲で終わる。

そこから想像をたくましくすると、やはり個や人間という枠組みを超えたところからこの世界を見ている部分が確実にあるように思える。それをごく自然に、特別なことではないものとして表現しているところが、この北欧のピアニストらしい。

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Helge Lien Trio
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