『ヘッドショット』 『アルバート・ノッブス』 『運命の死化粧師』 試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。

『ヘッドショット』 ペンエーグ・ラッタナルアーン

『地球で最後のふたり』や『インビジブル・ウェーブ』のラッタナルアーン監督作品。主人公の過去と現在、記憶と真実が複雑に入り組むノワール。

タイ・バンコクのヒットマン、トゥルは任務遂行中に頭を撃たれる。昏睡状態から目覚めた彼には世界が逆さまに見える。逆さまなのは世界なのか彼なのか。

ラッタナルアーンは、様々にスタイルを変えながら「因果応報」や「贖罪」というテーマを掘り下げてきたが、それは確かにこの作品にも引き継がれている。独自のハードボイルドな美学が際立っている。

『アルバート・ノッブス』 ロドリゴ・ガルシア

『彼女を見ればわかること』『美しい人』『愛する人』のロドリゴ・ガルシア監督作品。これまでガルシアの映画の中心的な舞台は、現代のサンフェルナンド・ヴァレーだったが、本作ではがらりと変わり、19世紀のアイルランド。というのもこの企画の構想を30年近く温めてきたのはグレン・クローズで、ガルシアの賛同を得て映画化を実現した。

女性が結婚せずに自立するには男性として生きなければならなかった時代を背景に、3人の主人公のそれぞれの生き方が実に鮮やかに描き出されている。

企画を立ち上げたのはクローズだが、映画は確かにガルシアの世界になっている。筆者は『愛する人』のレビューで「この監督は、短い物語を並べて様々な女性たちを描くだけではなく、時として個人という枠組みを超えて響き合うなにかをとらえようとしてきた。この新作には、そんなアプローチの到達点を見ることができる」と書いたが、ここにももうひとつの到達点があるといえる。

引っ張りだこのミア・ワシコウスカも出てます。

『運命の死化粧師』 リエン・イーチー

『海角7号/君想う、国境の南』で助監督を務めたリエン・イーチー監督の長編デビュー作。

若い女性死化粧師ミンシュウの前に運ばれてきた遺体は、彼女の高校時代の音楽教師だった。恩師の死因が自殺と聞いて不審に思った彼女は、真相を解明しようと動きだす。

死化粧師と死者との距離や精神的な繋がり、ミンシュウと彼女の記憶のなかの恩師との距離や感情的な繋がり。それらが明確な視点で描き分けられれば、さらに奥行きのある世界を切り拓くことができたはず。

●amazon.co.jpへ