Richard Skelton 『Landings』 レビュー

Review

場所から生まれ、場所を取り込み、そして場所に帰る――儀式としての音楽

イギリス・ランカシャーの自然とともに生きるアーティスト、リチャード・スケルトン(Richard Skelton)は、自身のレーベル“Sustain Release”を立ち上げ、Clouwbeck、 Heidika、 Carousell、A Broken Consortなどの様々な名義で作品を発表してきた。リチャード・スケルトンの名前を使ったのは、『Marking Time』(2008)が最初で、それにつづくのが『Landings』(2009)だ。

スケルトンが、弓弾きの弦楽器(主にヴァイオリン)、ギター、マンドリン、ピアノ、アコーディオン、パーカッションなどから紡ぎ出すレイヤー・サウンドはすぐにわかる。そこには彼でなければ切り拓けないサウンドスケープがある。音の断片は生々しく、ノイジーでもあり、身体というものを意識させる。ところがそうした断片で構築される空間は、美しく静謐で、幽玄とすらいえる。

Richard Skelton – Landings by _type

そんなスケルトンのサウンドスケープは、彼の精神や世界観と深く結びついている。


彼が立ち上げたレーベル“Sustain Release”には、2004年に亡くなった妻ルイーズへの追悼という意味が込められていた。それは単に死者に音楽を捧げるということではない。ルイーズもまたアーティストで、生前の彼女はスケルトンにインスピレーションをもたらしていた。

Sustain-Release Editions by sustain-release

このレーベルから生み出される作品は、スケルトンと亡き妻とのコラボレーションでもある。彼は、自分の音楽と彼女が残したアートワークや彼女が撮影した写真、そして枯れ葉や植物の種をパッケージにし、それが一枚一枚異なる作品になった。彼が様々な名義を使い分けるのも、音楽やアートワークとの統一性を意識してのことだといえる。『Marking Time』や『Landings』で本名を使っているのは、それらが他のレーベルからリリースされているからだ。

彼の音楽では「場所」が重要な意味を持つ。たとえば、彼の家から遠くないところにAnglezarkeという地域がある。そこには、遠い昔に農民が暮らしていた家屋の廃墟がある。彼は夜明け前にギターやヴァイオリンを持ってそこに行き、レコーディングを行う。特定の場所から生まれるその音はまだ曲にはなっていない。その音の断片には、激しさや生々しさがある。曲は後にその断片のループや重なりのなかから生み出される。

さらに、曲のなかに場所を取り込む。その方法がユニークだ。まだ使われている橋とすでに廃墟になった橋がある。最初の橋の下でまずレコーディングを行い、次にもうひとつの橋の下でそれをリプレイし、橋の反響によって異なる響きやテクスチャーを得る。そんなふうにして場所と場所が結び付けられ、音楽に場所が取り込まれる。

場所との繋がりはそれで終わらない。曲を作るとそれをCDに焼き、その音が演奏された場所に戻り、石の下などに置いていく。また、弦を土に埋めたり、小さな楽器をスタジオで使う前に自然のなかに置いておく。石や樹皮、松ぼっくり、羽根、骨などを、ピックとして使う。

そうしたある種の儀式を通して音楽が場所と深く結びつき、変化を遂げていく。音の断片は、激しくて生々しいのに、全体としては静謐で幽玄でもある。実は自然とはそういうものかもしれない。だからスケルトンのサウンドスケープに深く引き込まれるのだ。

<参照サイト>
Richard Skelton by Cory Card (foxy digitalis)
TLOBF Interview:Richard Skelton (The Line of Best Fit)
Two and a Half Questions with Richard Skelton (Headphone Commute)

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Richard Skelton
Landings – Richard Skelton
Marking Time – Richard Skelton
A Broken Consort
Box of Birch – A Broken Consort
Crow Autumn – A Broken Consort

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