ロドリゴ・ガルシア 『アルバート氏の人生』 レビュー

Review

個人という枠組みを超えて響き合い、引き継がれていくもの

『彼女を見ればわかること』(99)や『美しい人』(05)、『愛する人』(09)を振り返ってみればわかるように、ロドリゴ・ガルシアは、基本的には自分で脚本を書き、監督するタイプのフィルムメーカーだ。例外は、アン・ハサウェイ主演の『パッセンジャーズ』(08)だが、やはり彼の独自の世界を描き出せる題材ではなかった。

新作の『アルバート氏の人生』(11)もガルシアのオリジナルな企画ではないし、脚本にもタッチしていない。企画の出発点は、1982年にグレン・クローズが主役を演じ、オビー賞を獲得した舞台であり、この舞台に運命を感じたクローズは30年近くかけてその映画化にこぎつけた。ガルシアとは『彼女を見ればわかること』と『美しい人』で一緒に仕事をしていることもあり、彼に監督を依頼したのだろう。

この作品は昨年の東京国際映画祭コンペ作品の試写で観たが(その時点では『アルバート・ノッブス』というタイトルだった)、ガルシアのオリジナルな企画ではないので正直なところそれほど期待はしていなかった。しかし映画からはガルシアの世界が浮かび上がってきた。

続きを読む

『ヘッドショット』 『アルバート・ノッブス』 『運命の死化粧師』 試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。

『ヘッドショット』 ペンエーグ・ラッタナルアーン

『地球で最後のふたり』や『インビジブル・ウェーブ』のラッタナルアーン監督作品。主人公の過去と現在、記憶と真実が複雑に入り組むノワール。

タイ・バンコクのヒットマン、トゥルは任務遂行中に頭を撃たれる。昏睡状態から目覚めた彼には世界が逆さまに見える。逆さまなのは世界なのか彼なのか。

ラッタナルアーンは、様々にスタイルを変えながら「因果応報」や「贖罪」というテーマを掘り下げてきたが、それは確かにこの作品にも引き継がれている。独自のハードボイルドな美学が際立っている。

続きを読む

今週末公開オススメ映画リスト2011/01/13

週刊オススメ映画リスト

今週は『ヤコブへの手紙』『ジャライノール』『愛する人』『ソーシャル・ネットワーク』の4本です。

クラウス・ハロ 『ヤコブへの手紙』

公開より後になってしまいますが、1月20日発売の「CDジャーナル」2月号にレビューを書いています。

その昔、ジム・ジャームッシュは自分のスタイルを “less is more” という言葉で表現していた。説明や情報を削ぎ落としていけば、空間が広がり、自由な解釈や想像の余地が生まれる。逆にテレビの2時間ドラマのように、何でもかんでも説明してしまえば、 “more is less” になる。このフィンランド映画は、そんな “less is more” が効力を発揮する作品であり、描かれない部分の解釈によってドラマが奥深いものになっていく。

続きを読む