『グランド・マスター』 試写

試写室日記

本日は試写を1本(本当はもう少し前に内覧試写で観ていたが、いちおう完成披露試写会の日にあわせておくことにする)。

『グランド・マスター』 ウォン・カーウァイ

プレスによれば、すべての始まりは、ウォン・カーウァイ監督が『ブエノスアイレス』(97)撮影中のアルゼンチンで、ブルース・リーが表紙の雑誌を見たことだという。遠い外国で愛され続けている彼の映画を撮りたいと思った。

その後、ウォン監督の関心はブルース・リーから彼の師として知られる伝説の武術家・イップ・マン(葉問)へと移行し、綿密なリサーチを経て、中国武術を受け継ぎ、次代に継承していった宗師<グランド・マスター>たちの運命を描く物語になった。

独特の美学に貫かれたアクションは実に見応えがあるが、やはりアクション映画ではない。「愛と宿命の物語」というのも少し違うと思う。個人的にはこれは、登場人物も設定もまったく違うが、『欲望の翼』(90)『花様年華』(00)『2046』(04)という60年代三部作の前史と位置づけたくなる作品だ。


この三部作では、60年代の香港が異なる時間と場所から読み直されていく。『欲望の翼』と『花様年華』の間には、97年の香港返還があり、『花様年華』では返還以後という時間と場所から60年代が読み直される。『2046』の2046という数字は、香港が返還されるときに、中国が香港に対して50年間は何も変わらないと約束したことが出発点になっている。それは、2046年と2047年の間にもうひとつの断層が生まれる可能性があることを示唆する。

『花様年華』や『2046』は、やがて訪れるかもしれない分岐点も踏まえ、二重、三重の喪失を意識して60年代の香港を見つめる作品だといえる。

『グランド・マスター』で、トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェンが演じる主人公たちは、それぞれの事情で中国の故郷を離れ、香港にたどり着く。つまり彼らは故郷喪失者となる。ウォン監督が最も関心を持っているのは、香港という場所で生きることになった彼らが背負う喪失感であり、それがアクションや恋愛感情を交えて実に見事に描き出されている。