池谷薫監督 『ルンタ』 劇場用パンフレット



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かけがえのない生活、ひとつの宇宙を象徴する映画『ルンタ』

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、チベットの焼身抗議を題材にした池谷薫監督のドキュメンタリー『ルンタ』の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書かせていただきました。戦争、信仰、環境などさまざまな観点で重要な意味を持つ作品だと思います。

『ルンタ』は本日(9月19日)からポレポレ東中野にてアンコール・ロードショーになります。最短でも3週間の上映予定です。その他、盛岡・中央映画劇場、横浜ニューテアトル、新潟シネ・ウインド、長野ロキシー、大阪・第七藝術劇場、神戸・元町映画館、広島・シネツイン、沖縄・桜坂劇場でも本日から公開、または続映となります。

劇場で作品をご覧になりましたら、ぜひパンフレットもお読みください。

リョン・ロクマン&サニー・ルク 『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』 レビュー

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香港の過去・現在・未来を視野に入れ、法の意味と価値を浮き彫りにする力作

リョン・ロクマンとサニー・ルクの監督デビュー作となる『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』は、その物語に深いテーマが埋め込まれ、実に見応えがある。香港電影金像奨で、最優秀作品賞、監督賞など過去最多となる主要9部門を受賞したのも頷ける。この映画では、香港警察の機構や内部事情がリアルに描き出されるが、ふたりの監督が関心を持っているのは必ずしも警察の世界ではない。

ある晩、香港最大の繁華街モンコックで爆破事件が起こり、その直後にパトロール中の5人の警官が何者かに車両ごと拉致される。それは警察のトップが何らかの判断を下すべき事態だが、長官は海外に出張している。そこで、次期長官候補であるふたりの副長官が、対応をめぐって対立を深めていく。

長官に代わって指揮を執るのは、「行動班」を率いるリーだ。5人の警官のなかに息子が含まれていることを知った彼は、非常事態を宣言し、組織を総動員した人質救出作戦「コールド・ウォー」を遂行する。だが、「管理班」を率いるラウは、公私混同ともとれるリーの対応に疑問を抱き、指揮権をめぐる対立が生まれる。

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ワン・ビン 『三姉妹~雲南の子』 レビュー



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劣悪な環境にも適応していく、野生的ともいえる生命力

世界の注目を集める中国の鬼才ワン・ビン監督のドキュメンタリー『三姉妹~雲南の子』では、中国国内でも最も貧しいといわれる雲南省の高地(標高3200m)にある村に暮らす10歳、6歳、4歳の三姉妹の過酷な生活が映し出される。母親はだいぶ前に家族を捨て、父親は遠方の町に出稼ぎに行っている。

この作品と4月に公開された新鋭ベン・ザイトリン監督の『ハッシュパピー バスタブ島の少女』には注目すべき共通点がある。後者は温暖化による海面上昇の影響をもろにうける南ルイジアナの低地を舞台に、ハリケーン・カトリーナの悲劇や格差による貧困といった現実を反映したファンタジーだ。

どちらの映画も苦境に追いやられた少女の姿から、政治や社会に対する批判的なメッセージを読み取れないことはない。繁栄の裏にある厳しい現実が浮き彫りにされているからだ。

だが、二人の監督の関心は明らかに別のところにある。彼らが見つめるのは、いかに劣悪な環境であっても、それに適応していく野生的ともいえる生命力だ。

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『グランド・マスター』 試写

試写室日記

本日は試写を1本(本当はもう少し前に内覧試写で観ていたが、いちおう完成披露試写会の日にあわせておくことにする)。

『グランド・マスター』 ウォン・カーウァイ

プレスによれば、すべての始まりは、ウォン・カーウァイ監督が『ブエノスアイレス』(97)撮影中のアルゼンチンで、ブルース・リーが表紙の雑誌を見たことだという。遠い外国で愛され続けている彼の映画を撮りたいと思った。

その後、ウォン監督の関心はブルース・リーから彼の師として知られる伝説の武術家・イップ・マン(葉問)へと移行し、綿密なリサーチを経て、中国武術を受け継ぎ、次代に継承していった宗師<グランド・マスター>たちの運命を描く物語になった。

独特の美学に貫かれたアクションは実に見応えがあるが、やはりアクション映画ではない。「愛と宿命の物語」というのも少し違うと思う。個人的にはこれは、登場人物も設定もまったく違うが、『欲望の翼』(90)『花様年華』(00)『2046』(04)という60年代三部作の前史と位置づけたくなる作品だ。

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『建築学概論』 『三姉妹~雲南の子』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『建築学概論』 イ・ヨンジュ

韓国で恋愛映画初の400万人超の大ヒットを記録したという話題作。かつて初恋の痛みを分かち合った男女が、15年後に再会し、欠けていたピースを埋めて過去に決別を告げる。過去のふたりをイ・ジェフンとスジが、現在のふたりをオム・テウンとハン・ガインが演じている。

“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”で公開されるミア・ハンセン=ラブ監督の『グッバイ・ファーストラブ』(近くレビューをアップする予定)と比べてみても面白いかもしれない。どちらも初恋を題材にしていて、再会が描かれるだけではなく、そこに建築という異質な要素が絡んでくるからだ。

『建築学概論』は韓国ではリピーターが多かったようだが、それもわかる気がする。最初に観るときには、男女双方の複雑な感情を際立たせていく建築の要素が徐々に明確になるが、それをわかっていてみるとまた印象が変わるはず。

たとえばこの物語には、かつて交わされた彼女の家を建てるという約束が、15年後に果たされるという展開があるが、建築学科に通う大学1年の彼が思い描いた家と、建築士となった彼が実際に建てる家の距離からは、痛みや切ない感情を読み取ることができる。詳しいことはいずれレビューで。

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