今週末公開オススメ映画リスト2011/03/03+α

週刊オススメ映画リスト

今回は2010年カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した『ブンミおじさんの森』、同グランプリを受賞した『神々と男たち』、2009年度ゴヤ賞を7部門で受賞した『アレクサンドリア』、『再生の朝に ―ある裁判官の選択―』の4本です。

おまけとして『コリン LOVE OF THE DEAD』の短いコメントをつけました。

『ブンミおじさんの森』 アピチャッポン・ウィーラセタクン

「森や丘や谷を前にすると 動物や他のものだった 私の前世が現れる」という冒頭の言葉、森や里山の映像、鳥や虫の鳴き声や羽音、草木や風が生み出すざわめき、見えないものの気配。そうした要素が一体となった未知の映像世界に引き込まれる。

この映画の劇場用パンフレットに、民俗学、アニミズム、神話などからアピチャッポン・ウィーラセタクンの独自の世界を読み解く作品評を書いています。生者と死者、現世と他界、人間と動物を通して、日本と東南アジアを結びつける視点も盛り込み、この作品がより身近に感じられるかと思います。ご鑑賞の際はぜひ!

さらにこの『ブンミおじさんの森』は、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』と対比してみるとさらに興味深い。そういうレビューを「宝島」2011年4月号に書いておりますので、ぜひお読みください。

『神々と男たち』 グザヴィエ・ボーヴォワ

1996年にアルジェリアで起きた武装イスラム集団によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件を題材にした作品。誰もが心を揺さぶられる映画だと思いますが、筆者が注目したいのは冒頭に引用される詩編82章。「私は言う あなた方は皆 神々である しかし人間として死ぬだろう」という言葉は、様々な意味でこの映画と繋がっている。詳しいことは「キネマ旬報」2011年3月下旬号掲載のの作品評をお読みください。

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リウ・ジエ 『再生の朝に ―ある裁判官の選択―』レビュー



Review

死刑判決から処刑までの時間が喪に服すための異界となり、裁判官は死を通して生に目覚める

リウ・ジエ監督の『再生の朝に ―ある裁判官の選択―』は、中国で実際に車2台の窃盗で死刑になった青年のニュースや1997年の刑法改正にインスパイアされて作られた作品だ。

1997年、中国の河北省涿州市を舞台にしたこの映画には、立場の異なる三組の人物たちが登場し、複雑に絡み合っていく。

ベテランの裁判官ティエンは、娘を盗難車による轢き逃げで亡くして以来、無為に日々を送っている。彼の妻は飼いだした犬で気を紛らそうとするが、深い哀しみが癒えることはない。

貧しい家庭に生きる青年チウ・ウーは、車2台の窃盗で裁判にかけられ、死刑を宣告される。その判決は、ティエンを含む裁判委員会の合議で決定されたもので、チウ・ウーに判決を言い渡したのは、裁判官のティエンだった。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/02/03+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『ザ・タウン』『再会の食卓』『心中天使』の3本です。

おまけとして『ウォール街』の続編『ウォール・ストリート』とブラッド・アンダーソン監督の『リセット』の短いコメントをつけました。

『ザ・タウン』 ベン・アフレック

ベン・アフレックの監督第2作。強盗が家業のように引き継がれている共同体。そんな共同体が内部と外部の双方から崩壊していくことが、このドラマをより印象深いものにしている。詳しいことは『ザ・タウン』レビューをお読みください。

『再会の食卓』 ワン・チュエンアン

前作『トゥヤーの結婚』とこの『再会の食卓』。二作つづけて二人の夫を持つヒロインの物語を映画にする監督などそうそういるものではない。そういう家族のかたちが、個人と社会や歴史を深く結びつけ、複雑な感情が描き出される。詳しいことは『再会の食卓』レビューをお読みください。

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ワン・チュエンアン 『再会の食卓』レビュー



Review

二作つづけて二人の夫を持つ妻の物語を映画にする監督はなかなかいない

ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞した前作『トゥヤーの結婚』と、同映画祭で銀熊賞(最優秀脚本賞)を受賞した新作『再会の食卓』を並べてみると、ワン・チュエンアンがかなりユニークな感性とこだわりを持った監督であることがわかる。

『トゥヤーの結婚』の舞台は、砂漠化が進む中国の内モンゴル自治区。遊牧を営むヒロインのトゥヤーと家族は窮地に立たされている。夫が生活に必要な水を確保するために井戸を掘っているときにダイナマイト事故に遭い、下半身不随になってしまったからだ。

重労働で身体を壊しかけたトゥヤーは、夫の勧めに従い、家族が生きていくために離婚し、新しい夫を探すことにする。彼女が出した結婚の条件は、元夫の面倒も見ること。そのため彼女は、再婚によって二人の夫を持つことになる。

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趙曄(チャオ・イエ)『ジャライノール』レビュー



Review

ふたりは「日常」と「記憶」のはざまにある風景を旅する

中国映画界の新鋭チャオ・イエ監督の長編第2作『ジャライノール』は、実に素晴らしい映画だった。

舞台は、ロシアと国境を接する内モンゴル自治区にあるジャライノール炭鉱。そこは蒸気機関車の最後の聖地といわれる場所であり、その広大な風景のなかに、年老いた機関士ジュー・ヨウシアンと、年の離れた後輩リー・ジーチョンの絆が描き出される。

チャオ・イエ監督が見つめるのは明らかに消えゆくものだが、この映画にはノスタルジーとは一線を画す強度がある。

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『ジャライノール』2011年1月15日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー!!

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