テイト・テイラー 『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』 レビュー

Review

ユーモアを織り交ぜて描き出される女性同士のホモソーシャルな連帯関係

『ハッスル&フロウ』(05)や『ブラック・スネーク・モーン』(06)などの作品で知られるクレイグ・ブリュワー監督は、メンフィスに暮らし、メンフィスで映画を撮る自身の活動を、“リージョナル・フィルムメイキング”、地域に密着した映画作りと位置づけていた。

『フローズン・リバー』(08)で注目を集めたコートニー・ハント監督は、メンフィス出身で、現在は東部を拠点に活動しているが、その感性は生まれ育った土地と深く結びついている。彼女はこれまでの短編や長編をすべてニューヨーク州のアップステイトで撮影してきたが、それは風景がテネシーの故郷に非常によく似ているからだった(コートニー・ハント・インタビュー参照)。

小説家やミュージシャンと同じように、南部出身の映像作家は、土地に特別な愛着を持ち、土地に深く根ざした世界を切り拓く傾向がある。ミシシッピ州ジャクソン出身のテイト・テイラー監督にとって『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』は、リージョナル・フィルムメイキングを始めるきっかけになった作品といえる。

彼はこれまで15年以上もニューヨークやロサンゼルスを拠点に活動してきたが、この作品をミシシッピで撮ったことが転機となって故郷に戻ってきた。そして、かつてのプランテーションを購入し、そこを拠点に新人の育成にも乗り出そうとしているという。


だが、ミシシッピで映画を撮る機会が偶然、訪れたわけではない。『ヘルプ ~』は、キャスリン・ストケットの同名小説の映画化だが、テイラーとストケットは幼稚園時代からの幼なじみで、若い頃にはニューヨークでアパートをシェアしていたこともある。また、テイラーの短編作品からタッグを組んでいるプロデューサーのブロンソン・グリーンもミシシッピ州の出身だ。この映画が作られる原動力になっているのはそんな南部人ならではの心情といえる。

ヒロインのスキーターは、公然と差別がまかり通る60年代のミシシッピ州ジャクソンの町で、黒人メイドの現実を伝えるために彼女たちの証言を集め、それを本にしようとする。

なぜ彼女はそんな企画を思いついたのか。大学に行って政治に目覚めたり、公民権運動に触発されたわけではない。理由はシンプルだ。地元の新聞社に就職した彼女の初仕事は、家事に関するコラムの代筆だったが、彼女には家事の知識がなかった。

そこで彼女の育ての親である実家のメイドのコンスタンティンから知恵を借りようとするが、実家に彼女の姿はなかった。母親はその事情を語ろうとはしない。仕方なく同級生のメイドを訪ねて歩くうちに彼女のなかに疑問がもたげてくる。同世代の白人女性たちが、子育てと家事をメイドにまかせ、社交に明け暮れているばかりか、屋外にメイド専用のトイレを作ろうとしていたからだ。

つまり、スキーターは家事をきっかけに、日常のなかで問題に目覚める。そして、人種の壁を超えた女性同士のホモソーシャルな連帯関係が生み出されていく。そんなドラマで見逃せないのは、登場人物たちの関係や意識の変化が、“料理”と“トイレ”に結びつけて表現されているところだ。

町いちばんの料理の腕を持つメイドのミニーは、スキーターの同級生のなかでリーダー格のヒリーの家で働いている。そのヒリーは、黒人を不潔とみなし、各家庭に黒人専用のトイレを設置する活動に精を出している。ミニーはそんなヒリーから、家庭用のトイレを使ったことを理由に解雇される。

仕事をなくしたミニーは、貧しい出身であるために白人女性のコミュニティから仲間はずれにされているシーリアに雇われる。ミニーとシーリアのあいだには料理を通して友情が芽生える。やがてスキーターとミリーは、それぞれにトイレに繋がるアイデアでヒリーに逆襲することになる。

このドラマが題材の割りに重くならないのは、巧みにユーモアを織り交ぜながらホモソーシャルな連帯関係を描き出しているからだ。

※この映画の女優陣のアンサンブルは実に見応えがあるが、特にミニー役のオクタヴィア・スペンサー、ヒリー役のブライス・ダラス・ハワード、シーリア役のジェシカ・チャステインが素晴しい。

(初出:「CDジャーナル」2012年4月号、加筆)