『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』 『愛、アムール』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』 フィリップ・カーデルバッハ

1937年に起こった巨大飛行船ヒンデンブルグ号の爆発炎上事故を題材にしたドイツ映画。もとはテレビ映画として製作された作品で、グレタ・スカッキやステイシー・キーチなども出演している。もともと180分だったものを110分に刈り込んでいるので、いきなりかと思うところもないではないが、非常に手堅い演出で破綻はしていない。

70年代に同じ事故を題材にしたロバート・ワイズ監督の『ヒンデンブルグ』という作品があった。詳しいことは覚えていないが、飛行船に爆弾を仕掛ける目的は“反ナチス”だった。この映画の場合には、グローバリゼーションの時代を意識したような経済に関わる背景が盛り込まれている。

『愛、アムール』 ミヒャエル・ハネケ

『白いリボン』につづいて2作品連続でカンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いたミヒャエル・ハネケの新作。死生学というテーマへのアプローチも、ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの演技も本当に素晴らしいが、筆者などは、そういうところに話を進める前に、映画に立ち込める空気だけでまたハネケにやられたと思う。

たとえば、『ピアニスト』では、ヒロインのエリカが母親の厳格な指導と管理のもとに置かれているため、この母と娘が暮らすアパートの内と外ではまったく空気が違う。『隠された記憶』では、主人公ジョルジュと妻子が暮らす家の入口を外から映した謎のビデオテープの映像から始まるが、それだけでも自宅の内と外の空気が大きく変わっていく。

『愛、アムール』は、ドラマの流れからいえばその最後の部分から始まる。鍵のかかったアパートの扉が外からこじ開けられ、警官らしき男たちが入ってくる。そこから時間を遡り、ドラマが始まる。ジョルジュとアンヌの老夫婦(ちなみに彼らは『隠された記憶』の夫婦と同じ名前である)が演奏会から帰宅すると、何者かによって扉がこじ開けられている。物取りの仕業のようだが、ふたりは神経を尖らせるほどのこともなく眠りにつく。しかし、アンヌが病に倒れたことをきっかけに内と外に見た目以上の境界が生まれ、ハネケは、扉や窓によって空気を自在に操ってみせる。

主題や俳優の演技以前に、この空気が生み出す力だけで大半の映画が負けている。