『嘆きのピエタ』 『孤独な天使たち』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『嘆きのピエタ』 キム・ギドク

2012年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いたキム・ギドク監督の新作。天涯孤独で冷酷な借金取りの男イ・ガンドの前にある日、母親だと名乗る謎の女が現れる。戸惑いつつも女を母親として受け入れていくガンド。果たして女は本当に母親なのか? なぜ、突然現れたのか?

『アリラン』試写室日記に書いたように、『悲夢』以降のギドクはどん底だった。しかし、脚本と製作総指揮を手掛けた『プンサンケ』(11)では、自分の世界を取り戻していた。

そしてこの新作では、自分の世界を取り戻すだけではなく、変化も見せる。明らかに作風や表現の幅が広がっている。これまではあえてそうしなかったのか、あるいは新たに身につけたのかは定かではないが、新作にはストーリーテリングの要素が加わっている。

これまでのギドクは、人物にしてもドラマにしても、もの言わぬ姿勢を貫くことでしばしば謎を謎のままにした。この新作ではストーリーテリングによって謎が解かれ、衝撃的な結末を迎える。しかし、おそらく見所はそこだけではない。そんなドラマの背景にはもの言わぬものの世界が広がっていて、それが胸に突き刺さってくる。

『孤独な天使たち』 ベルナルド・ベルトルッチ

ベルトルッチにとって『ドリーマーズ』(03)以来の新作になる。プレスによれば、『ドリーマーズ』の発表後、重い病に苦しめられたベルトルッチは、一時は引退さえ覚悟したが、車椅子の生活を受け入れたことで映画作りへの意欲が再燃したという。

映画の原作はニッコロ・アンマニーティの小説『Io e Te』で、すでに日本語版『孤独な天使たち』(河出書房新社)が出ている。このアンマニーティという作家は、一冊も作品を読んだことがないのにすごく惹かれるものがある。それは彼の小説をガブリエーレ・サルヴァトーレス監督が映画化した『ぼくは怖くない』が忘れがたい印象を残しているからだ。

その『ぼくは怖くない』では、南イタリアにある貧しい集落に暮らす少年ミケーレが、ある日、廃屋の裏にある穴のなかに閉じ込められている少年を発見する。深い穴の暗闇で自分はもう死んでいると思い込んでいる少年は、ミケーレを守護天使と呼ぶ。ミケーレはそんな少年を現実に呼び戻そうとするが、逆にミケーレ自身の現実が揺らいでいく。

というのも、この物語の背景には、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』で書いたようなイタリアの南北問題があり、ある意味でミケーレ自身がすでに穴のなかに閉じ込められているともいえるからだ。

『孤独な天使たち』では、自分を取り巻く世界を受け入れられない少年が、親に嘘をついて密かにアパートの地下室で一週間を過ごす計画を実行に移すが、たまたまそこに長い間会っていなかった異母姉が転がり込んでくる。

この映画の地下室は、『ぼくは怖くない』における穴を想起させ、非常に深い意味を持っているように思えるのだが、ベルトルッチが関心を持っていたのはどうもそんな空間よりも、少年と異母姉の若さや苦悩のようだ。詳しいことはまたレビューで書きたい。