リチャード・リンクレイター 『バーニー/みんなが愛した殺人者』 レビュー

Review

全米第一の州にならんとする、勢いのあるテキサスとは違う、もうひとつのリアルなテキサス

リチャード・リンクレイター監督の『バーニー みんなが愛した殺人者』は、1996年にテキサス州の田舎町で実際に起こった殺人事件に基づいている。脚本を手がけているのは、「テキサス・マンスリー」誌のライターで、98年に事件の記事を同誌に書いたスキップ・ホランズワースだが、事件の真相に迫るジャーナリスティックな作品というわけではない。しかし、笑えるからといって、単なるコメディになっているわけでもない。

テキサス州東部にある田舎町カーセージの葬儀社で働くバーニーは、住民の誰からも愛される町一番の人気者だ。仕事を完璧にこなすだけでなく、町の美化運動を推進したり、短大の演劇部で音楽監督を務めるなど、市民活動でも貢献している。そんな彼は、石油で莫大な財を築いたドゥエイン・ニュージェントの葬儀で未亡人のマージョリーに出会う。

高慢でわがままな彼女は町一番の嫌われ者だ。バーニーはそんな彼女に親身になって接し、彼女の方も彼だけには心を開くようになる。やがて彼は葬儀社を辞め、マージョリー専属のマネージャーになり、資産の管理をまかされる。だが、マージョリーの支配欲は日に日に激しさを増し、精神的に追い詰められた彼は、ある日、衝動的に彼女を射殺してしまう。

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『きっと ここが帰る場所』 『ブラック・ブレッド』 『星の旅人たち』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『きっと ここが帰る場所』 パオロ・ソレンティーノ

注目のイタリア人監督パオロ・ソレンティーノ(『愛の果てへの旅』『イル・ディーヴォ』)がショーン・ペンと組んで作り上げた新作。隠遁生活を送りながらもゴスメイクを欠かさないかつてのロックスター、シャイアン(ショーン・ペン)が、父親の死をきっかけにナチスの戦犯を追いかけるというようなストーリーを書いても、なんのことだかわからないだろうし、この映画の独特の世界は伝わらないだろう。

非常にユニークな感性と緻密な計算によって構築された世界は、どのようなところに反応するかによって印象も変わってくるはずだ。筆者はハル・ハートリーとかウェス・アンダーソンをちょっと連想したりしたが、それよりもここでは音楽のことに触れておきたい。

といっても、デイヴィッド・バーンやトーキング・ヘッズの曲<This Must Be the Place>のことではない。確かに、映画のタイトルもそこからとられ、劇中でもバーンがプレイしているのでこの曲はいちばん目立つ。しかし他にも個人的にやたらと印象に残る音楽が使われているのだ。

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