今週末公開オススメ映画リスト2013/02/28

週刊オススメ映画リスト

今回は『フライト』『ジャンゴ 繋がれざる者』の2本です。

『フライト』 ロバート・ゼメキス

ゼメキスにとって本当に久しぶりの実写作品。見応えあります。試写のときに中原昌也氏に出会い、終わってからちょっとお茶を飲んだんですが、彼もとても気に入っていました(『フライト』試写室日記の方に書くような話題ですが、忘れてしまったのでこちらに)。

「キネマ旬報」2013年3月上旬号(2月20日発売、タラちゃんが表紙の号です)に、「巡り合せが啓示に見えるゼメキスの奥深さ」というタイトルで作品評を書いています。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)や『キャスト・アウェイ』(00)という過去作も振り返りつつ、新作のポイントに迫るゼメキス寄りの原稿です。ぜひ!

それから、劇場用パンフレットに「サスペンスとヒューマンドラマの見事なまでの融合」というタイトルでコラムを書いています。川口敦子氏がデンゼル・ワシントン寄りの、北小路隆志氏がゼメキス寄りの原稿を書かれているので、筆者はどちらにも寄らず、作品の構成や映像表現を細部まで掘り下げるような原稿になっています。ぜひ!

「キネマ旬報」の筆者の記事の隣のページはゼメキスのインタビューで、そのタイトルが「すばらしい脚本にめぐりあったら作るしかない」。まさにその通りで、これはジョン・ゲイティンズの脚本ありきの作品といえます。彼は最初は俳優を目指し、バーテンダーなどをやりながらオーディションに通い、それなりに苦労したようですが、脚本家として見事に花開きました。

『ジャンゴ 繋がれざる者』 クエンティン・タランティーノ

まず『ジャンゴ 繋がれざる者』試写室日記のつづきのような話を書きます。

この新作で筆者の印象に残ったのは、リチャード・フライシャーの『マンディンゴ』を意識したのではないかと思われる部分です。タランティーノはこの映画をブラックスプロイテーション・フィルムとして賞賛していますが、個人的にはそういう位置づけでは見過ごされてしまうような魅力が、この映画にはあると思います。

『70年代アメリカ映画100』で筆者が担当した作品の1本が『マンディンゴ』だったんですが、ブラックスプロイテーション・フィルムとは違うとらえかたをしています。

この映画では、ジェームス・M・バーダマンの『ふたつのアメリカ史』で詳述されているような南部特有の文化、揺るぎない階級制度が前提になっています。奴隷の飼育に力を注ぐ農場主のマクスウェルは、そんな制度のなかで自分が絶対に本物の紳士になれないことに激しいコンプレックスを持っています。

カイル・オンストットの原作ではそのことが以下のように表現されています。「彼は社会の階層のなかで自分のしめる地位が紳士のそれではない――すくなくとも上流の紳士ではなく、わずかにかたちばかりの紳士であること、こんな商人よりははるかに上流ではあるけれども完全な紳士階級の一員ではないことを知っていた

マクスウェルと息子のハモンドがそろって足が不自由なのは、そんな複雑な階級意識を象徴していると解釈することができます。だからこそ彼らは、純血のマンディンゴに執着し、破滅することになります。

ポストモダンなタランティーノの世界では、そういう文化や歴史や内面の屈折はすべて抜け落ち、過剰さだけが残ります。さらにいえば、痛みの感覚というものも同様に抜け落ちてしまいます。

子供の頃に『続・荒野の用心棒』のクライマックスを見て、筆者のなかに残ったのは痛みの感覚ですが、『ジャンゴ 繋がれざる者』にはそれがありません。

なのになぜここで取り上げているかというと、そういうタランティーノ的な一貫性の帰結として、頷ける部分があり、そのことを月刊「宝島」2013年4月号(5月25日発売)の連載コラムに書いたからです。

《引用文献》
●『マンディンゴ1・2』カイル・オンストット(小野寺健訳/河出書房新社)