アレハンドロ・アメナーバル 『アレクサンドリア』レビュー

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4世紀の女性天文学者の悲劇は、“人間中心主義”から脱却できない私たちの悲劇でもある

実話に基づくアレハンドロ・アメナーバルの新作『アレクサンドリア』の舞台は、栄華を極めたローマ帝国が崩壊しつつある4世紀末のエジプト、アレクサンドリア。

ヒロインは、世界の文化と学問の中心であるこの都市を象徴するような存在だ。美しく聡明な女性天文学者ヒュパティアは、探究心と理想に燃えて生徒たちを教育していた。だが、この都市にも混乱の波が押し寄せてくる。

台頭するキリスト教と異教のあいだの対立がエスカレートしていく。異教徒に対する弾圧、支配を進めるキリスト教指導者の鉾先はやがて、かつての教え子に影響力を持つヒュパティアに向けられるようになる。

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アッバス・キアロスタミ 『トスカーナの贋作』レビュー

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監督には性格が悪いところもないと面白い映画は作れない

『トスカーナの贋作』は、アッバス・キアロスタミがイランを離れてから初めて撮った長編作品だ。

物語はイタリアの南トスカーナ地方にある町アレッツォから始まる。『贋作』という著書を刊行したイギリスの作家ジェームズ・ミラー(ウィリアム・シメル)がこの町を訪れ、講演を行っている。会場にいた女(ジュリエット・ビノシュ)が、ぐずる息子をもてあまし、作家の著作の翻訳者にメモを渡し、その場をあとにする。

そのメモはジェームズに届けられ、彼の関心を引いたらしい。作家は彼女が経営するギャラリーを訪れ、二人は車でルチニャーノに向かい、美術館や町を散策する。贋作について議論を交わす彼らは、カフェの女主人に夫婦と勘違いされたことをきっかけに、夫婦のように振る舞いだす。

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ミヒャエル・ハネケ 『白いリボン』レビュー



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独自の視点で向き合うナチスとファシズム

■■物語の舞台設定とドイツ帝国成立の過程■■

ミヒャエル・ハネケは、精緻な考察と斬新な表現でヨーロッパの歴史や社会の暗部を抉り出してみせる。『ピアニスト』(01)に登場するピアノ教授のヒロインは精神的に男になっているが、それは伝統や制度に潜む男性優位主義に呪縛され、欲望を規定されているからだ。『隠された記憶』(05)に描き出される人気キャスターの忘却と不安、過剰な自己防衛は、歪曲され、黙殺されたマグレブ移民弾圧の歴史に起因している。

新作『白いリボン』ではハネケの鋭敏な感性がさらに研ぎ澄まされているが、それは彼が見出した題材と無関係ではないだろう。ミュンヘンに生まれ、オーストリアで育ち、近年はフランスを拠点に活動してきたハネケは、この新作でドイツと向き合い、独自の視点からナチスやファシズムに迫っている。

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一尾直樹 『心中天使』レビュー



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携帯やネットが生み出す形而上学的変異によって人と人の繋がりや世界はどう変わるのか

『心中天使』(10)は、一尾直樹監督にとって劇場デビュー作『溺れる人』(00)に続く2作目の長編劇映画となる。

名古屋を拠点に活動する一尾監督の作品には共通点がある。まず、地域性が前面に出てくることがない。ドラマの背景になるのは、均質化した社会の日常だ。そしてもうひとつ、平凡な日常のなかに、常識的にはあり得ないと思えるようなことが起こる。

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ベン・アフレック 『ザ・タウン』レビュー



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土地そのものとの関係が希薄な幻想の共同体と確かな感触を持つ土を媒介にした絆

ベン・アフレックの監督第2作、チャック・ホーガンのミステリー『強盗こそ、われらが宿命<さだめ>』を映画化した『ザ・タウン』でまず興味をそそられるのは、物語の舞台となるマサチューセッツ州チャールズタウンだ。

ボストンの北東部に位置し、住民たちが“タウン”と呼ぶこの地域は、他のどの地域よりも多くの銀行強盗、現金輸送車強盗を生み出してきた。もちろんそれには理由がある(ことになっている)。かつてチャールズタウンには凶悪犯罪者用の最重要警備刑務所が存在し、その刑務所が移転したあとも、犯罪者の共同体が残った。

アフレックがそんな背景に関心を持っていたことは、プレスに収められら彼のコメントから察せられる。

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