『ヴェルサイユの宮廷庭師』 劇場用パンフレット

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喪失の痛みを持つ者たちの、自然との共鳴

2015年10月10日(土)より全国ロードショーになるイギリス映画『ヴェルサイユの宮廷庭師』の劇場用パンフレットに、上記タイトルでレビューを書いています。『ウィンター・ゲスト』(97)で監督としても評価されたアラン・リックマンが、監督・共同脚本・出演を兼ねた作品です。ヒロインの庭師サビーヌをケイト・ウィンスレットが演じ、『君と歩く世界』(12)のマティアス・スーナールツが共演しています。

劇場で映画をご覧になりましたら、ぜひパンフレットもお読みください。

ジャック・オディアール 『君と歩く世界』 レビュー

Review

暴力と苦痛のなかで生を実感する男 ――アリと歩く――

たとえば、両脚を失ったシャチの調教師が、ある出会いをきっかけに再び力強く歩み出す物語といわれたら、どんな作品を想像するだろうか。お涙頂戴の映画だと思う人は少なくないはずだ。しかし、ジャック・オディアール監督の『君と歩く世界』は、いい意味で私たちの予想を裏切ってみせる。それは、アリという人物の存在によるところが大きい。

私たちは、そのアリがステファニーをクラブから自宅まで送るところで、彼がどこか普通とは違っていることに気づく。彼は腫れた手を氷で冷やすために家に上がりたいという。そこで、彼がいるからといわれてしまえば、普通は外で待つしかないだろう。ところがアリは、「だから?」と問い返す。家に上がっても、他人の視線など気にもとめない。そんな違いがステファニーの記憶に残らなければ、ふたりの関係が発展することもなかっただろう。

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