『トゥ・ザ・ワンダー』 劇場用パンフレット

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彼女を目覚めさせ、
解放するもの

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、8月9日(金)より公開中のテレンス・マリック監督の新作『トゥ・ザ・ワンダー』の劇場用パンフレットに上記タイトルでレビューを書いています。

これまでマリックは作品の時代背景を50年代か、それ以前の時代に設定し、同時代を正面から描くことがありませんでしたが、この新作では現代の世界を描いています。

ただしマリックのことですから、もちろん現代だけを見つめているわけではありません。新作には、前作『ツリー・オブ・ライフ』のような宇宙や生命の起源をめぐる大胆な表現は見られませんが、そんな独自の視点は日常的な世界の細部に引き継がれています。


レビューには書いていませんが、マリックの視点は、たとえばフランシス・コリンズの『ゲノムと聖書』(NTT出版、2008年)に通じるところがあります。コリンズは本書の目的を、現代の科学の理解が神を信じる信仰といかに調和できるかを熟考することであると書いていますが、マリックは詩的な表現でそれを実践しているともいえます。

この新作は男女の愛の物語で、ハビエル・バルデム扮する神父の存在に違和感を覚える人もいるかと思いますが、マリックの独自の視点を踏まえるなら彼の存在は必然でしょう。

この映画には見えない糸が張り巡らされ、それを手繰っていくと、映画の世界が「愛」と「神」、「人間中心主義」と「環境倫理学」という四つの要素で成り立っているように思えてきます。マリックの監督作のなかで最も完成度が高い作品ですが、詳しいことは劇場用パンフレットをお読みください。