『明りを灯す人』 『田中さんはラジオ体操をしない』試写

試写室日記

本日は試写を2本。どちらの作品も電気に関わっていたりする。

『明りを灯す人』 アクタン・アリム・クバト

『あの娘と自転車に乗って』や『旅立ちの汽笛』の監督から届けられた久しぶりの新作だが、監督の名前が以前とは変わっている。かつてはアクタン・アブディカリコフだったが、ロシア名のアブディカリコフを、キルギス名のアリム・クバトに改めたとのこと。

しかもこの『明りを灯す人』では、監督・脚本に加えて、自ら主人公を演じている。映画の舞台は、中央アジア・キルギスの小さな村で、村人たちから親しみを込めて“明り屋さん”と呼ばれている電気工が主人公だ。穏やかだった村に変革の波が押し寄せ、共同体の基盤が揺らいでいく。

これは素晴らしい映画だ。電気工という主人公の設定が生きている。電灯は便利ではあるが、人々を豊かにするとは限らない。これまで同じ闇を共有していた人間と動物は別の世界を生きるようになる。闇に支えられてきた説話の力も失われていく。明り屋さんは、そんな分岐点に立たされている。

『田中さんはラジオ体操をしない』 マリー・デロフスキー

このドキュメンタリーの主人公は、田中哲朗さん、63歳。30年前に毎朝のラジオ体操を拒否したために大手電気会社を解雇された。それ以来、抗議のために会社の前で毎朝プロテストソングを歌い続けている。

このドキュメンタリーを作ったのは、オーストラリア人の女性監督マリー・デロフスキー。インターネットで偶然見つけた田中さんに興味を持ち、来日してこの作品を作った。

デロフスキー監督が関心を持っているのは、田中さんが提起する問題ではなく、同じ場所で同じことをやり続ける田中さんという人間だが、頑固者を自認し、パワフルに自己主張する田中さんを突き抜けて、人間を炙り出すのはなかなか難しい。

田中さんの活動の背景には、頑固とか信念といった言葉では説明できない秘密や独特の価値観がありそうだが、それがどんなものかはわからない。でも少なくともなにかあるようには見える。

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