『魔女と呼ばれた少女』 『汚れなき祈り』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『魔女と呼ばれた少女』 キム・グエン

政治学者のP・W・シンガーが『子ども兵の戦争』(NHK出版)で浮き彫りにしている子供兵の問題を独自の視点で掘り下げた作品。アフリカの子供兵といえば、ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督の『ジョニー・マッド・ドッグ』が思い出される。だが、この映画は、視点や表現がまったく違う。

『ジョニー・マッド・ドッグ』が主にリアリズムであるとすれば、こちらは神話的、神秘的、象徴的な世界といえる。水辺の村から拉致され、反政府軍の兵士にされた12歳のヒロインは、亡霊が見えるようになり、亡霊に導かれるように死線に活路を見出す。

そのヒロインと絆を深めていくのが、アルビノの子供兵であることも見逃せない。それについては、マリ出身のアルビノのシンガー、サリフ・ケイタの『ラ・ディフェロンス』レビューを読んでいただきたい。そこに書いたような背景があるため、このアルビノの子供兵もまた、ある種の神秘性を帯びると同時に悲しみの色に染められる。


また、監督のキム・グエン(名前から察せられるように彼の父親はベトナム人だ)がカナダのケベック州出身であることもポイントになるだろう。それについては、「“モザイク”と呼ばれるカナダの多文化主義の独自性と功罪」をお読みいただければと思う。『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と同じように、この監督が他者に向ける強い眼差しは、そんな背景と無関係ではない。

『汚れなき祈り』 クリスティアン・ムンジウ

2005年にルーマニアの修道院で実際に起こった「悪魔憑き事件」を題材にし、第65回カンヌ国際映画祭で女優賞と脚本賞に輝いたクリスティアン・ムンジウ監督の待望の新作。『4ヶ月、3週と2日』(07)もそうだったが、作品の持つ凄まじい強度に圧倒される。

そんな強度が生み出される要因は、いくつかあげることができる。まず、チャウシェスク時代や冷戦以後の現実を、限られた空間、限られた人物のドラマに集約することができる。

『4ヶ月、3週と2日』と新作は、どちらもふたりの女性とひとりの男性がドラマの軸になるが、その力関係に対する洞察の深さ、鋭さが半端ではない。さらに、筆者が『4ヶ月、~』のレビューで書いたような「必然としてのドグマ95」としかいいようのない映像表現、カメラワークも見逃せない。詳しいことはまたレビューにて。