『Canto Negro』 by Henri Texier Nord-Sud Quintet

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南と北を結ぶクインテットはブラック・アトランティックを目指す

フランスを代表するのジャズ・ベーシストHenri Texierは、1945年パリ生まれなので、もう伝説といえるキャリアに満足してしまっても、あるいは精神的、肉体的に衰えてきてもおかしくないが、いまもこういうしっかりとしたヴィジョンを持ったアルバムを作っている。すごいことだと思う。

『Canto Negro』 (2011)

筆者が最初に連想したのが、Melvin Gibbs Elevated Entityの『Ancients Speak』(09)。TexierとGibbsでは、世代も環境も違うのでサウンドには大きな違いがあるが、ヴィジョンは同じだと思う。

『Ancients Speak』 (2009)


それは“ブラック・アトランティック”という連結関係といっていいだろう。ポール・ギルロイの『ブラック・アトランティック』(上野俊哉・毛利嘉孝・鈴木慎一郎訳/月曜社/2006年)では、このように説明されている。

その歴史的連結関係とは、感覚し、生産し、コミュニケートしあい、記憶する構造のなかで離散した黒人たちが創出し、しかしもはや黒人たちだけが占有しているわけではない立体音響的で、二重言語的で二重の焦点を持った文化の形式のことである。この構造のことを、私はさらなる発見のためにブラック・アトランティック[黒い大西洋]世界と呼んだのだった

どちらのアルバムでも、アフリカとアフロ・ブラジリアン、アフロ・キューバン、アフロ・カリビアン、アフロ・アメリカンの音楽が接合されていく。違うのは、Texierの拠点がパリで、Gibbsがニューヨークということだ。

クインテットの名前のNord-Sudは、北と南を意味するが、Texierは北と南を結ぶことでブラック・アトランティックを目指している。

余談ながら、ジャズと映画のファンには↓この映像がオススメだ。Texierの活動と音楽を追ったドキュメンタリーのパート1だが、終わりのほうにちょこっとベルトラン・タベルニエが出てくる。かつてセロニアス・モンクの名曲にインスパイアされ、デクスター・ゴードン主演のジャズ映画『ラウンド・ミッドナイト』を撮った監督です。

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Henri Texier
Canto N***o – Henri Texier Nord-Sud Quintet
Ancients Speak – Melvin Gibbs’ Elevated Entity

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