ミケランジェロ・フランマルティーノ 『四つのいのち』 レビュー

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ドキュメンタリーとフィクションの境界を超え、独自のアニミズムの世界を切り拓く

イタリア出身の新鋭ミケランジェロ・フランマルティーノが監督した『四つのいのち』(2010)の舞台は、南イタリア・カラブリア州の山岳地帯だ。映画の導入部では、黙々と山羊の世話をする年老いた牧夫の生活が、静謐な映像のなかに描き出される。

だがこの牧夫はタイトルにある“四つのいのち”のひとつに過ぎない。やがて彼は息を引き取り、入れ替わるように仔山羊が誕生する。その仔山羊は群れから逸れ、樅の大木の下で眠りにつく。冬が過ぎて春になると樅の大木が切り倒され、村の祭りのシンボルとなる。そして祭りが終わると、大木は伝統的な手法で炭となる。この映画では、人間、動物、植物、無機物がサークルを形成していく。

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『You Are Not Alone I & II (Sohrab remix album)』 by Various Artists

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大都市テヘランに生きるミュージシャンの孤独と絶望

昨年公開されたクルド系イラン人の監督バフマン・ゴバディの『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)には、テヘランのアンダーグラウンドで活動する様々なミュージシャンたちが登場する。インディ・ロック、フュージョン、ブルース、ヘヴィメタ、ラップなどなど。ただしこの映画、ドキュメンタリーではない。ゴバディはアンダーグラウンドのミュージシャンとの出会いをきっかけに、ドキュメンタリー、フィクション、ミュージックヴィデオ、即興などが融合したユニークな作品を作り上げた(※無許可のゲリラ撮影であったため、ゴバディは祖国を離れることになった)。

バフマン・ゴバディ・インタビュー『ペルシャ猫を誰も知らない』

テヘラン出身のミュージシャンSohrabはこの映画には登場しないが、彼のアルバム『A Hidden Place』にはもうひとつのイランを見出せる。彼が切り拓くエレクトロニック・アンビエントの世界は、アメリカで活動するイラン人批評家ハミッド・ダバシが主張するような多文化的、混合主義的、異種交配的な性格を備えているように思える。

『A Hidden Place』 (2010)

Sohrabは1984年、テヘランに生まれ。兄弟や友だちとパンク・バンドを結成したが、自由な表現や活動が許されず、2年で解散した。そして、孤立した状況のなかで、エレクトロニック・アンビエントの世界を切り拓いた。

Sohrab “A Hidden Place” from Touch on Vimeo.

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Jana Winderen 『Energy Field』 レビュー

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音の世界に生きることへの想像力を喚起するサウンドスケープ

ノルウェー出身のJana Winderenは、90年代前半から主にサウンド・インスタレーションの分野で活動しているサウンド・アーティスト、プロデューサー、キュレーター、ディレクターだ。

彼女は4年に渡ってグリーンランド、アイスランド、ノルウェー、バレンツ海を踏査し、氷河のクレバスの深部やフィヨルド、外洋でフィールド・レコーディングを行ってきた。Touchレーベルからリリースされたアルバム『Energy Field』は、その音源をもとに作られた作品で、<Aquaculture 17:51>、<Isolation / Measurement 11:41>、<Sense of Latent Power 20:19>の3曲が収められている。

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Energy Field

そんなフィールド・レコーディングなかでも特に興味深いのが、ハイドロフォンを使って採取される海中の音だろう。彼女はできるだけ深い場所で音を採取しようと試み、最近ではケーブルの長さが90メートルにもなっているという。

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