『Katrina Ballads』 by Ted Hearne

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ハリケーン・カトリーナの悲劇はどのように記憶されていくのか

リッチー・バイラークのアルバムをめぐって、文化的記憶のことを書いたら、Ted Hearneの『Katrina Ballads』のことを思い出した。Hearneは1982年生まれの若い作曲家・指揮者であり、自ら演奏したり歌ったりもする。

『Katrina Ballads』の題材は、ハリケーン・カトリーナの悲劇だ。マリタ・スターケンは『アメリカという記憶』のなかで、ベトナム戦争とエイズ流行を中心に、ケネディ暗殺、チャレンジャー号爆発事故、ロドニー・キング殴打事件、湾岸戦争などを通して、文化的記憶を論じているが、いまそのテーマに迫るとしたら、ハリケーン・カトリーナの悲劇を取り上げることだろう。

『Katrina Ballads』では、クラシック、オペラ、ゴスペル、ミニマル・ミュージック、エレクトロニック、ロック(特にギター)、ジャズ(管楽器のアンサンブルとか)、ブロードウェイ・ミュージカルといった多様なジャンルが混ざり合い、壊れた世界を再びひとつにしようとする。

『Katrina Ballads』

Hearneが創造した現代のオラトリオは、賞も受賞し、メディアから2010年のベスト・クラシック・アルバムという評価も受けているが、多くの人々にその物語が受け入れられ、共有されているのかといえば、そういうわけでもなさそうだ。少なくとも最初は厳粛な空気に引き込まれる。

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『Impressions of Tokyo: Ancient City of the Future』 by Richie Beirach



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東京点描と3・11以後、個人的な記憶と文化的記憶について

久しぶりにリッチー・バイラークのピアノを聴いた。Outnoteというレーベルの“Jazz and the City”というシリーズの一作。それぞれのアーティストが縁のある都市を選び、ソロで表現する。これまでにEric Watsonの『Memories of Paris』、Kenny Warnerの『New York – Love Songs』、Bill Carrothersの『Excelsior』といったアルバムがリリースされている。

バイラークが選んだのは東京。ジャケットには「東京点描」や「未来を映す古都」という日本語も刻み込まれている。全16曲のなかには、バイラークと交流があった日本のアーティストへの思いを込めた<Takemitsu-san>や<Togashi-san>、日本文化を題材にした<Kabuki><Zatoichi-Kurosawa><Rock Garden>といった曲が盛り込まれている。

『Impressions of Tokyo』

そうした曲のなかに、少し違和感を覚える曲名があった。14曲目の<Tragedy in Sendai>だ。この曲名は明らかに東日本大震災のことを意味しているが、このアルバムはいつレコーディングされたのだろうか。

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