アントニオ・チャバリアス 『フリア よみがえり少女』 レビュー



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Review

喪失感が罪悪感につながり、喪失感が罪悪感をよみがえらせる

38歳のダニエルと34歳のラウラの夫婦は、ともに同じ小学校に勤める教師で、子宝に恵まれないことに悩んでいる。そんなある日、マリオという男が学校にダニエルを訪ねてくる。彼はダニエルが子供の頃に親しかった友人だが、その後は疎遠になっていた。なにかに怯えるマリオは自分の娘のフリアに会ってほしいと懇願するが、意味がわからないダニエルは病院に行くことを勧め、突き放してしまう。

それから間もなく夫婦は、マリオが自殺したことを知る。マリオの葬儀に参列した彼らは、故人の娘フリアが養護施設に入れられていることを知り、一時的に預かることにする。だが、以前からダニエルを知っているかのようなフリアの発言や態度が、彼にある少女のことを思い出させ、精神的に追い詰めていく。

ダニエルが封印した忌まわしい過去は、そんなドラマと並行してフラッシュバックによって徐々に明らかにされていく。その夏、ダニエル少年は、父親が再婚を考えていたルイサと彼女のふたりの子供マリオとクララと一緒に過ごすことになる。だが数日後、ダニエルやマリオと一緒だったはずのクララが、墓地で遺体となって発見され、再婚は白紙となった。


フリアに接したダニエルはなぜマリオが突然訪ねてきたのか理解するが、もはや事情を聞くことはできない。果たしてフリアはクララの生まれ変わりなのか。ダニエルは彼女を恐れ、最終的には殺意すら抱くようになる。

2012年ベルリン国際映画祭のコンペに正式出品されたこの映画は、ホラーやサスペンスであると同時に、人間ドラマとして教訓を読み取ることもできる。そのキーワードになるのは“喪失感”と“罪悪感”と“見えないもの”だ。

この映画は、星空を見上げるダニエル少年と父親の会話から始まる。少年は自分たちふたりで幸せなのに、なぜ他人を連れてくるのかと尋ねる。おそらく彼の母親は亡くなっているのだろう。

少年は喪失感に苛まれている。そして、それをどう処理するかで未来も変わる。まだ喪に服すことを理解できなくても、見えないものを受け入れる想像力を持てれば、現実も受け入れられるだろう。一方、喪失を受け入れられなければ、望まぬ現実を排除しなければならなくなるだろう。

少年は後者の立場に陥り、クララの死によって罪悪感を背負うことになった。しかもその罪悪感についても同じ過ちを犯す。見えない死者と向き合い、罪を悔いるのではなく、見えないものは無視し、過去を封印し、見えるものの世界だけを生きる道を選んだわけだ。

実はこの映画のなかでそういう過ちを犯しているのはダニエルだけではないが、そこに触れるとネタバレになるので、これ以上は書かない。いずれにしてもこの映画では、喪失感が罪悪感につながり、喪失感が罪悪感をよみがえらせる。そしてそのとき、見えるものの世界だけを生きてきた人間にとって、見えないものは想像を絶する恐怖になる。

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