『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 映画.com レビュー+サントラの話

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海上他界信仰を通して描き出される荒々しく深いイニシエーション

「映画.com」の本日(4月9日)更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで、4月20日公開のベン・ザイトリン監督『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)のレビューを書いています。その告知のついでに、レビューのテキストを補完するようなことを書いておきます。

特に音楽についてです。監督のベン・ザイトリンは、ミュージシャン/プロデューサーのダン・ローマーとともに音楽も手がけています。彼の映画では、音楽が重要な位置を占めています。というのも、彼は高校や大学時代には、バンドで活動したりミュージカルを創作するというように、まずなによりも音楽に関心を持っていました。ちなみに演奏する楽器は主にギターで、ピアノもこなすようです。

そんなザイトリンにとっては映像と音楽は対等なものであって、どちらも共通のイマジネーションから生み出され、深く結びついています。筆者は『ハッシュパピー バスタブ島の少女』試写室日記で、この映画の音楽について、「マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもある」と書きました。

以下のYouTubeは、ザイトリンとローマーも参加したサントラの1曲<Once There Was a Hushpuppy>の演奏風景を収めたものです。筆者はすぐにナイマンを連想しますが、それは間違いではなかったようです。


ネットでザイトリンのインタビューをチェックしたら、影響を受けた音楽家として、クラシックではチャイコフスキーとラフマニノフ、映画音楽の作曲家ではマイケル・ナイマン、ジョン・ウィリアムズ、初期のダニー・エルフマンを挙げていました。ケイト・ブッシュもよく聴いていたといいます。あとは直接映画の舞台に結びつく様々なケイジャン・ミュージックですね。

しかしそのなかでも特に注目なのはナイマンの音楽との繋がりです。かつてナイマンは自分の音楽のことを“Death Music”と表現していました。たとえば、昔、筆者がインタビューしたとき、このように説明していました。

確かに、ピーター(・グリーナウェイ)の映画とは無関係にわたしはたくさんの“Death Music”を書いています。『コックと泥棒、その妻と愛人』で使われた <メモリアル>はサッカーの試合で死亡したファンに捧げた60分の作品の一部で、 元々は架空の死ではなく現実的な死に対するわたしの直接的な感情の表明であり、また、地震の死者に捧げる曲なども書いています。これはある種のレクイエムのモードというものにわたしが親しみをおぼえ、 自然なものを感じるからです。西洋音楽の歴史のなかには、死に対するきまった表現モードが作り上げられ、わたしはそのラインを引き伸ばしているようにも思います

『ハッシュパピー バスタブ島の少女』では、死や喪失と深く関わる物語が描かれます。そして、その音楽は単にナイマンの楽曲に似ているのではなく、ザイトリンはそこにレクイエムの要素を感じとり、しっかりと引き継いでいるといえます。

それでは、「映画.com」の『ハッシュパピー バスタブ島の少女』レビューをお読みください。ちなみに以下のYouTubeは、サントラの曲の生演奏、スコア、映画の予告編です。


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