『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 『天使の分け前』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 ベン・ザイトリン

『君と歩く世界』試写室日記に書いたような事情で、この映画もほとんど予備知識なしに試写に出向いた。監督が無名の新人で、少女の物語で、本年度のアカデミー賞の主要4部門にノミネートされたということくらいか。巨大な野獣と小さな少女が向き合っている写真にはちょっと興味をそそられていた。

映画を観ながら、ニューオーリンズから遠くないであろう、どことも特定されないバイユーを舞台にしていて、ハリケーン・カトリーナや石油の流出事故などが意識された物語であることがわかる。このブログでも様々なかたちで取り上げているようにニューオーリンズやカトリーナについては非常に興味があるので、引き込まれる。

最初に連想したのはハーモニー・コリンの『ガンモ』。『ガンモ』が、竜巻の襲撃から立ち直れず、貧困にあえぐ人々の営みを描いていて、この映画の場合には、ハリケーンや地盤沈下で人々が追い詰められていくということだけではない。『ガンモ』が中西部に設定されていながら、実はコリンが育ったナッシュヴィル郊外のホワイトトラッシュの町で撮影され、コリンのなかにある南部的な感性がそこに吐き出されていたように、この映画でも南部の文化が独特の空気をかもし出している。


あと、なんといっても音楽が素晴らしい。ストリングスやホーンの使い方が独特。マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもあるし、ベイルートのフロントマン、ザック・コンドンが生み出す音楽のように、ホーンが無国籍な響きを帯びている。この音楽は、少女から見た世界を表現していて、生者と死者の交感という要素に注目すれば、ニューオーリンズを拠点に活動するHurray for the Riff Raffやダーティー・ダズン・ブラス・バンドにも通じているといえる。そんな音楽を作ったのは、ミュージシャンでプロデューサーのダン・ローマーとこの映画の監督でもあるベン・ザイトリン。

いずれレビューを書くが、とにかく素晴らしい想像力とオリジナリティ。やられた。

『天使の分け前』 ケン・ローチ

ケン・ローチがこんなにおちゃめな映画を撮っていいのか。あのとんでもなく重くて胸にこたえる『ルート・アイリッシュ』のあとだけに、そんなふうに思ってしまう人もいるかもしれないが、表面的にそう見えるだけで根本のところではまったくブレていない。但し、観ているときは、どこかで思い切りドスンと落とされるのではないかと、心のどこかではらはらしていた。ローチですからね。

この映画には、アメリカ映画でいえば、マティ・リッチの『ストレート・アウト・オブ・ブルックリン』やジョン・シングルトンの『ボーイズ’ン・ザ・フッド』などに通じるテーマが埋め込まれている。

ローチの『この自由な世界で』では、娘が道に迷ってしまったことを、父親がわかっていながら、救うことができないが、それを踏まえるなら、この映画は、道に迷ってしまった若者たちを、父親的な存在が救う物語と見ることもできる。

ケン・ローチをまったく知らない人にも安心してオススメできる作品。