『トガニ 幼き瞳の告発』 『苦役列車』 『ギリギリの女たち』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『トガニ 幼き瞳の告発』 ファン・ドンヒョク

試写を観る前に漠然と想像していた作品とは違っていた。これは、いい意味で、ということだ。筆者は、実際に起こった事件をリアルに描き、立場の弱い少年少女たちに性的虐待を行っていた加害者たちを糾弾、告発する作品を想像していた。

実際に作品を観た人は、まさにそういう映画ではないかと思うかもしれない。確かに、少年少女の痛みや恐怖、不安がひしひしと伝わってくるリアルなドラマであり、心を揺さぶる告発になっている。しかし、後半に入ると別の要素が見え隠れするようになる。

韓国の軍事主義については、イム・サンス監督の『ユゴ 大統領有故』やユン・ジョンビン監督の『許されざるもの』のレビューなどで触れているが、この映画でも内面化された軍事主義が意識されているように思える。そこに告発とは違う視野の広がりや深みがある。詳しいことはあらためてレビューで。

『苦役列車』 山下敦弘

西村賢太の芥川賞受賞作をいまおかしんじ脚本、山下敦弘監督で映画化。内面の描写が中心となる私小説の世界を映像で表現するのはなかなかやっかいだ。この映画では、康子(前田敦子)という映画オリジナルのヒロインを加えるなどして、メリハリをつけている。

屈折しまくりの落伍者・貫多には、金もないし、友だちと長続きするはずもないし、恋が成就するはずもない。しかし、何も無いわけではない。失うからこそ言葉に対する執着が残る。言葉だけが彼に応えるといえばいいか。この映画はそこのところをかなりシュールなスタイルで表現している。

『ギリギリの女たち』 小林政広

『愛の予感』や『春との旅』の小林政広監督の新作。この映画は、できるだけ予備知識なしに観たほうがいいだろう。独特の構成の効果がより鮮明になるからだ。冒頭は、ある一軒家の屋内に空間が限定された35分間のワンカット。実家を出てそれぞれにニューヨークと東京で生きてきた長女と次女、そして家に取り残された三女が再会する。

この長いワンカットで鍵を握るのは時間だ。三姉妹は、離れていた空白の時間をめぐって、感情をむき出しにし、傷つけ合う。しかし、限定された空間が開かれ、ドラマの背景が屋外に広がっていくにしたがって、彼女たちがいる場所が重要な位置を占めるようになり、そのことによって関係も変化していく。

その場所とは気仙沼だが、詳しいことはあらためて。