今週末公開オススメ映画リスト2012/05/10

週刊オススメ映画リスト

今回は『ロボット』『ムサン日記~白い犬』『さあ帰ろう、ベダルをこいで』『キラー・エリート』(順不同)の4本です。

『ロボット』 シャンカール

ド派手で奇想天外で突っ込みどころが満載のVFXシーンも確かにインパクトがあるが、個人的にいちばん強烈だったのは“スーパー・スター” ラジニカーントのバイタリティだ。

90年代末に、ラジニ主演の『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(93)や『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(97)などを取り上げた「インド映画のなかのタミル語映画」という原稿を書いたことを思い出した。

そのなかで、1949年生まれのラジニはもう決して若くはなく、地元では彼の後継者は誰かという話題も出るが、それでも彼の地位はなかなか揺るぎそうにないという現状を出発点に、根強い人気の背景についていろいろ書いている。


それから10年以上経って、(おそらく出演本数は減っているのだろうが)それでもまだスーパー・スターの地位にあるのにはやはり驚かされる。しかも、ロボット工学の専門家バシーガラン博士と彼が生み出すロボットのチッティの二役をこなして、ほとんどドラマを牛耳ってしまうばかりか、VFXによってラジニというアイコンがスクリーンを埋め尽くしていく。これにはさすがに圧倒される。『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)のレビューでは、ラジニの“ふたつの顔”について書いたが、この筋立てはそれを引き継いでいるともいえる。

かつて筆者が観たラジニ主演作では、映画のどこかに必ずタミル人やタミル語へのこだわりが刻印されていたが、それは彼がロボットになっても変わらない。チッティは驚異的な学習能力によって、様々な言語を自在に操るが、それでも母語はタミル語だと歌っている。

そんな場面を観ながら、インド系アメリカ人のジャズ・サックス奏者ルドレシュ・マハンサッパのアルバム『Mother Tongue』(04)のことを思い出した。タイトルはもちろん母語を意味し、アルバムに収められた曲の多くは、“Kannada(カンナダ語)”、“Gujarati(グジャラート 語)”、“Telugu(テルグ語)”、“Konkani(コンカニ語)”、“Tamil(タミル語)”、“Malayalam(マラヤラム語)”のように、インドで使われている様々な言語から曲名がとられている。

インドのことをよく知らないアメリカ人には、インド系であるマハンサッパのバックグラウンドが単一文化の世界のように思えるらしい。このアルバムには、インドに対するそうした先入観を払拭し、多様な言語や文化があることを伝えようという狙いがある。

『ムサン日記~白い犬』 パク・ジョンボム

韓国の新鋭パク・ジョンボムが、製作・監督・脚本・主演の4役をこなし、借金しながら作り上げたこのインディペンデント映画が各国の映画祭で受賞を重ねたことから、『息もできない』のヤン・イクチュンと比較されることが多いという。

パク・ジョンボムは、脱北してソウルに暮らし、病気で早世した親友をモデルに脚本を書き、脱北者の青年を演じているが、映画には脱北者だけではなく、韓国社会に対するパク監督自身の視点もしっかりと盛り込まれている。それがこの映画の世界を分厚いものにしている。

月刊「宝島」2012年6月号のコラムにレビューを書いていますので、ぜひお読みください。

『さあ帰ろう、ペダルをこいで』 ステファン・コマンダレフ

ブルガリア映画界の新鋭ステファン・コマンダレフの長編第2作。第12回ソフィア映画祭の最優秀ブルガリア映画賞、観客賞、第24回ワルシャワ国際映画祭の審査員特別賞など数々の賞を受賞している作品。主演はエミール・クストリッツァ作品でおなじみのミキ・マノイロヴィッチ。

ブログに『さあ帰ろう、ペダルをこいで』レビューをアップしていますので、詳しくはそちらをお読みください。コマンダレフは、ドキュメンタリーの監督としても評価が高く、そちらの作品も観てみたい。

『キラー・エリート』 ゲイリー・マッケンドリー

『キラー・エリート』試写室日記でも書いたように、ジェイソン・ステイサムとクライヴ・オーウェンの激突は見応えがあるが、アクションだけの映画ではない。背後に石油の利権をめぐるイギリスとアラブの駆け引きがあるというプロットが効いてる。駒であるはずの主人公たちの激突が、その駆け引きをかき乱していくことになる。