アヌラーグ・バス 『バルフィ!人生に唄えば』 レビュー

Review

世界を引っ掻きまわすトリックスターが炙り出すもの、巧妙な時間軸の操作が生み出すマジック

インド映画を牽引するアヌラーグ・バス監督の『バルフィ! 人生に唄えば』の主人公は、生まれつき耳が聞こえず、話もできないが、豊かな感情を眼差しや身ぶりで表現してしまう心優しい青年バルフィだ。物語は彼と二人の女性、富も地位もある男性と結婚したシュルティと、施設に預けられている自閉症のジルミルを軸に展開していく。

バルフィはシュルティに一目惚れし、彼女が結婚してしまっても想いつづける。しかしその一方で、父親の手術費を捻出すべく奔走するうちに、祖父の遺産を相続したジルミルの誘拐事件に巻き込まれ、彼女との間に絆を培っていく。

この映画には、世界各国の映画からの引用が散りばめられているが、あまり細部に気をとられると、作品のダイナミズムが半減しかねない。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/05/10

週刊オススメ映画リスト

今回は『ロボット』『ムサン日記~白い犬』『さあ帰ろう、ベダルをこいで』『キラー・エリート』(順不同)の4本です。

『ロボット』 シャンカール

ド派手で奇想天外で突っ込みどころが満載のVFXシーンも確かにインパクトがあるが、個人的にいちばん強烈だったのは“スーパー・スター” ラジニカーントのバイタリティだ。

90年代末に、ラジニ主演の『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(93)や『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(97)などを取り上げた「インド映画のなかのタミル語映画」という原稿を書いたことを思い出した。

そのなかで、1949年生まれのラジニはもう決して若くはなく、地元では彼の後継者は誰かという話題も出るが、それでも彼の地位はなかなか揺るぎそうにないという現状を出発点に、根強い人気の背景についていろいろ書いている。

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キラン・アルワリアと『灼熱の魂』とカナダの多文化主義をめぐって

トピックス

「るつぼ」とは違う「モザイク」が生み出す文化と相対主義のはざまで

カナダは世界に先駆けて国の政策として多文化主義を導入した。その政策には二本の柱があった。一本は、ケベック州と残りのカナダがひとつの国家としてどのように存在すべきなのかという課題に答えるものだ。カナダの多文化主義の功罪をテーマにしたレジナルド・W・ビビーの『モザイクの狂気』では、以下のように記されている。

同委員会の勧告に基づいて、公式の政策声明が出された。カナダには二つの建国民族――フランス人とイギリス人――がいると宣言された。これ以後、カナダは二つの公用語――フランス語と英語――を持つことになる。カナダ人は一生いずれの言語で暮らしてもよい。一九六九年、この考えは確固不動のものになった。公用語制定法の通過に伴い、異集団間を支える主要な二つの礎石の一つ――二言語併用主義――が据えられた

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『Suno Suno』 by Rez Abbasi’s Invocation

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カッワーリーの一体性と精神性によってジャズに新たな血と知を注ぎ込む

筆者のお気に入りのギタリスト、レズ・アバシ(Rez Abbasi)のニューアルバムが素晴らしい。“Invocation”というグループ/ユニット名をアルバムで名乗るのはこれがはじめてだが、2009年にリリースした『Things To Come』と基本的にメンバーは同じであり、実質的には『Things To Come』がInvocationのファーストで、こちらがセカンドということになる。

メンバー構成は、ギターと全曲の作曲がリーダーのレズ・アバシ、サックスがルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)、ピアノがヴィジェイ・アイヤー(この三人については何度も取り上げているので説明はいらないだろう)、ベースがヨハネス・ワインミュラー(Johannes Weidenmueller)、ドラムスがダン・ワイス(Dan Weiss)。

『Things To Come』の時には、このクインテットに、インド系カナダ人(現在はニューヨーク在住)のヴォーカリストで、アバシ夫人でもあるキラン・アルワリア(Kiran Ahluwalia)が4曲に、チェロのマイク・ブロックが2曲に加わっていた。今回は完全にクインテットで勝負している。

『SUNO SUNO』

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マイケル・ウィンターボトム・インタビュー

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現代のインドに舞台を移せば、トマス・ハーディの世界がダイナミックに展開できると思った

マイケル・ウィンターボトム監督に取材でお伝えしたインタビューの記事がTIFFのサイトにアップされました。三度目の映画化となるハーディの作品のことから、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの曲も使われている音楽のことまでいろいろ質問しています。

なかでも筆者が特に興味を覚えたのは、ツーリズムやポストコロニアリズムに関する発言ですね。ウィンターボトムがミシェル・ウエルベックの『プラットフォーム』の映画化を切望していたことを覚えていて、この小説を読んでいる方にはかなり興味深い発言なのではないかと思います。

インタビューは↓こちらからどうぞ。
【公式インタビュー】コンペティション『トリシュナ』