マイケル・ウィンターボトム 『いとしきエブリデイ』 レビュー

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感情と距離の間にあるマイケル・ナイマンの音楽

マイケル・ウィンターボトムは、『いとしきエブリデイ』を99年の監督作『ひかりのまち』と対を成す家族の物語と位置づけている。そんな接点を持つ二作品で重要な役割を果たしているのが、マイケル・ナイマンの音楽だ。ウィンターボトムの映像とナイマンの音楽の関係は、一般的な映画のそれとは違う。

ウィンターボトムは、物語に頼るのではなく、リアルな状況を積み重ねていくことで独自の世界を作り上げていく。かつて彼は自分のスタイルについて以下のように語っていた。

私は一般的な意味での物語というものに観客を引き込むような作り方はしたくない。観客が自分の考えや感情を自由に選択する余地を残しておきたい。それがある種の距離を感じさせることになるかもしれないが、決めつけを極力排除し観客に委ねたいんだ

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『いとしきエブリデイ』 劇場用パンフレット

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感情と距離の間にあるマイケル・ナイマンの音楽

2013年11月9日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショーになるマイケル・ウィンターボトム監督の新作『いとしきエブリデイ』(12)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでコラムを書いています。

映画に登場する幼い子供たちは、実の4兄妹。ウィンターボトムは、プロの俳優とその子供たちから成る家族の日常を、5年の歳月を費やして撮影してこの作品を作り上げました。様々なかたちでフィクションとドキュメンタリーの狭間にリアルを求めつづけるウィンターボトムならではのアプローチだと思います。

ウィンターボトムはこの新作を、99年の『ひかりのまち』と対を成す作品と位置づけています。それはキャストやスタッフにも表れています。『いとしきエブリデイ』では、『ひかりのまち』で長女のデビーに扮したシャーリー・ヘンダーソンと三女モリーの夫エディに扮したジョン・シムが、カレンとイアンという夫婦を演じています。そしてどちらもマイケル・ナイマンが音楽を担当しています。

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マイケル・ウィンターボトム・インタビュー

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現代のインドに舞台を移せば、トマス・ハーディの世界がダイナミックに展開できると思った

マイケル・ウィンターボトム監督に取材でお伝えしたインタビューの記事がTIFFのサイトにアップされました。三度目の映画化となるハーディの作品のことから、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの曲も使われている音楽のことまでいろいろ質問しています。

なかでも筆者が特に興味を覚えたのは、ツーリズムやポストコロニアリズムに関する発言ですね。ウィンターボトムがミシェル・ウエルベックの『プラットフォーム』の映画化を切望していたことを覚えていて、この小説を読んでいる方にはかなり興味深い発言なのではないかと思います。

インタビューは↓こちらからどうぞ。
【公式インタビュー】コンペティション『トリシュナ』

マイケル・ウィンターボトム監督に取材

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新作『トリシュナ』に埋め込まれたサブテーマが見えてきた

新作『トリシュナ』がTIFFコンペ作品になっているマイケル・ウィンターボトム監督にインタビューしてきた。彼にインタビューするのは3度目。最初は『バタフライ・キス』で来日したとき、2度目は『いつまでも二人で』で、このときは電話インタビューだった。いずれにしても10年以上経過している。

ウィンターボトムは早口で、集中してくるとさらに早くなる。コメントの密度も濃いので、その場では把握できなかったことがあとでよみがえり、なるほどと思うことがある。今回もそういうことがあった。

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マイケル・ウィンターボトム 『トリシュナ』 上映

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ナラティブな要素を削ぎ落とし、状況を浮き彫りにする

東京国際映画祭のコンペ作品の1本、マイケル・ウィンターボトム監督の『トリシュナ』を会場で観た。原作はトマス・ハーディの『テス』。ウィンターボトムにとってハーディの小説の映画化は、『日陰のふたり』、『めぐり逢う大地』につづいて3度目ということになる。但し、最初からハーディの小説の映画化を目指していた作品ばかりではない。

『めぐり逢う大地』の場合は、アメリカになる前のアメリカを題材にした作品の構想を練っているうちに、それがハーディの世界に重なり、映画化ということになった(マイケル・ウィンターボトム・インタビュー参照)。この新作も、舞台を現代のインドに移しての映画化なので、その可能性もある。

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