『tirtha』 by vijay iyer with prasanna & nitin mitta

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ジャズ・ピアニスト、アイヤーがインド音楽に接近したわけは?

遅ればせながら、ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)の『tirtha』(2011)である。前から聴いてはいたが、まだ取り上げていなかった。アイヤーのディスコグラフィのなかではかなり異色の作品といっていいだろう。

いまのニューヨークのジャズ界で目立つのが、アイヤーやRudresh Mahanthappa、Rez Abbasiといったインド亜大陸にルーツを持つミュージシャンたちだ。但し、アイヤーとMahanthappaやAbbasiでは、音楽の方向性が少し異なるように見える。

tirtha (2011)

Mahanthappaは、南インドの古典音楽にサックスを導入して独自の世界を確立したKadri Gopalnathに大きな影響を受け、このインドの巨匠とコラボレーションを展開する『Kinsmen』(08)や、パキスタンのカラチ生まれのAbbasiとタブラ奏者Dan WeissをメンバーとするIndo-Pak Coalition名義の『Apti』(08)で、インド音楽へと接近した。


Abbasiも『Snake Charmer』(05)あたりから、タブラ、ヴォーカル、シタール・ギターなどでインド音楽を意識するようになり、『Bazzar』(06)でMahanthappaが参加するようになり、一方ではAbbasiが『Kinsmen』や『Apti』に参加するようになった。

これに対してアイヤーは、これまでそれほど積極的にインド音楽に接近しようとすることはなかった。ところが、この『tirtha』では、インド音楽もバックグラウンドに含むギタリストのprasanna、タブラ奏者のnitin mittaとコラボレーションを展開している。特に最近の『Historicity』(09)や『Solo』(10)と比較してみると、よけいに意外な印象を与えるのではないか。

しかしこのコラボレーションにはそれなりの経緯がある。この変則的なトリオは、もともとインド独立60周年を記念する企画のひとつとして結成された。レコーディングも最近というわけではない。このアルバムのレコーディングは2008年8月で、2008年11月と2009年3月にレコーディングされた『Historicity』や2010年5月の『Solo』よりも古い。

だから、その順番で聴いてみるとしっくりくる。非常に完成度の高い『Historicity』のあとに位置づけると、なにかアプローチが半端に感じられるが、実はその手前の作品なのだ。

アイヤーは、グローバリゼーションの時代には、こうしたコラボレーションが、ジャンルや文化の壁を壊すことではなく、より自然なものになっているというようなことをどこかで語っていた。しかし少なくともこのアルバムでは、Fareed Haque+The Flat Earth Ensembleの『Flat Planet』(09)ほどには、そんなヴィジョンが明確になっていない。

とはいうものの、試みとしてはやはり面白い。アイヤーが意識していたのは、ランディ・ウェストンのアフリカン・リズム・トリオやコルトレーンだというが、それは確かにサウンドから感じられる。

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Vijay Iyer
Tirtha – Vijay Iyer, Prasanna & Nitin Mitta
Solo – Vijay Iyer
Historicity (Bonus Track Edition) – Vijay Iyer Trio
Simulated Progress – Fieldwork & Vijay Iyer, Steve Lehman and Elliot Humberto Kavee
Rudresh Mahanthappa
Apti – Dan Weiss, Rudresh Mahanthappa & Rez Abassi
Kinsmen – Rudresh Mahanthappa
Apex – Rudresh Mahanthappa & Bunky Green
Dual Identity – Rudresh Mahanthappa & Steve Lehman
Rez Abbasi
Snake Charmer – Rez Abbasi
Modern Memory – Rez Abbasi
Bazaar – Rez Abbasi
Things To Come – Rez Abbasi
Fareed Haque
Flat Planet – ファリード・ハーク & The Flat Earth Ensemble