『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事



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性的虐待を隠蔽し、加害者を野放しにする秘密を守る文化 『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年7月16日更新記事で、フランソワ・オゾン監督・脚本の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(19)を取り上げました。

オゾンが実話に基づく物語に初めて挑んだ新作。フランスのカトリック教会の神父による児童への性的虐待事件。長い沈黙を破って告発に踏み切る被害者たちの苦悩を掘り下げることに力点を置く構成ですが、その一方で、加害者の神父や事件を隠蔽する枢機卿の言動や態度には、単純に保守主義とか保身、組織的な隠蔽と表現してしまうことに違和感を覚えるような空気を感じました。記事では、フランス在住のジャーナリスト/社会学者フレデリック・マルテルが書いた大著『ソドム――バチカン教皇庁最大の秘密』を参照しつつ、その空気が何なのかについても考察しています。

コラムをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

性的虐待を隠蔽し、加害者を野放しにする秘密を守る文化 『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

2020年7月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

フランソワ・オゾン 『危険なプロット』 レビュー



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新作にはオゾンが編み出してきた様々な話術が凝縮されている

ある中流家庭を舞台にしたフランソワ・オゾンの長編デビュー作『ホームドラマ』では、父親がネズミという異物を家に持ち込んだことをきっかけにして、家族がそれぞれに自己を規定していた枠組みから解き放たれ、現実と幻想の境界が曖昧な世界へと踏み出していく。

この映画のプロモーションで来日したオゾンは、現実と幻想についてこのように語っていた。

ぼくは、夢とか幻想と現実を同次元で描きたいと思っている。幻想や夢は現実と同じくらい重要であり、人間が見えてくる。次回作では三面記事の実話がもとになっているけど、次第に実話から離れていく。人を殺した若い男女が死体を捨てるために森に入っていくけど、現実の世界で罪を犯したことに対する迷いと森のなかで迷うことがダブっていくことになるんだ」(※次回作とはもちろん『クリミナル・ラヴァーズ』のことをさしている)

オゾンはデビュー以来、様々な設定やスタイルで夢や幻想と現実を同次元でとらえるような世界を作り上げてきた。『しあわせの雨傘』につづく新作『危険なプロット』は、彼がこれまでに編み出した話術を一本に凝縮したような作品といえる。

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フランソワ・オゾン 『しあわせの雨傘』 レビュー



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女性の内なる欲望や抑圧を描き続けるフランソワ・オゾンの妙技

フランソワ・オゾンの作品では女優が特別な輝きを放っている。この監督は女優から豊かな個性を引き出してみせるが、そのことと彼が追求しつづけるテーマには深い結びつきがある。彼は女性の内に潜む欲望や抑圧や葛藤を、独自の視点で描き出そうとする。オゾン作品に登場するヒロインたちは、しばしば予期せぬ出来事に見舞われ、混乱する状況に対処することを余儀なくされる。

『まぼろし』(01)では、長年連れ添った夫が浜辺から忽然と姿を消してしまう。残された妻の心は、夫と過ごす日常という幻想と耐えがたい現実の狭間で揺れていく。アガサ・クリスティの世界とミュージカルを組み合わせたような『8人の女たち』(02)では、雪に閉ざされた屋敷で主人が何者かに殺害され、女ばかりの家族やメイドの秘密が次々に暴き出されていく。

『スイミング・プール』(03)では、愛人でもある出版社社長の別荘で過ごす女性作家の前に、編集者の娘と称する謎の少女が現われる。この女性作家は、現実と幻想が入り交じる世界のなかで、愛人との半端な関係を清算し、スランプを克服して新たな境地を切り拓いていく。

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フランソワ・オゾン『しあわせの雨傘』



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本日(1月8日)から公開になるフランソワ・オゾン監督の新作『しあわせの雨傘』の劇場用パンフレットに、「女性の内なる欲望や抑圧を描きつづけるフランソワ・オゾンの妙技」というタイトルで、彼の過去作にも言及した作品評を書いています。

男女の関係と政治が入り組む台詞のやりとりや立場の逆転、象徴的な水の表現などに、オゾンらしさがよく出ていておススメです。

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