ミゲル・ゴメス 『熱波』 レビュー



Review

幽霊の噂とは何か、ポルトガルの新鋭による“消え去ったものの痕跡”についての考察

ポルトガル映画界の新鋭ミゲル・ゴメス監督の『熱波』は、緻密に構築されたモノクロの映像世界が実に不思議な印象を残す作品だ。

その物語は、現代ポルトガルの都市を舞台にした「楽園の喪失」と植民地時代のアフリカを舞台にした「楽園」の二部で構成されている。

第一部に登場するのは、80代の孤独な老女アウロラと彼女の世話をするメイドのサンタ、そして彼らの隣人で、定年後に奉仕活動に精を出すカトリック信者の女性ピラール。病に倒れ、死期が近いことを悟ったアウロラは、ベントゥーラという男を探すように二人に頼む。見つかったベントゥーラは、アウロラの死に目には間に合わないが、二人に50年前の出来事を語り出す。

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『ペーパーボーイ 真夏の引力』 『熱波』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ペーパーボーイ 真夏の引力』 リー・ダニエルズ

『プレシャス』で注目を集めたリー・ダニエルズ監督の新作は、ピート・デクスターのベストセラー小説の映画化。まだ人種差別が色濃く残る60年代末の南部フロリダを舞台にした異色のノワールだ。

もちろんミステリーとしての謎解きもあるし、暴力やセックスの描写は強烈な印象を残すが、必ずしもそれらが見所というわけではない。

前作の原作であるサファイアの『プレシャス』(最初は『プッシュ』だったが、いまは映画にあわせたタイトルに変更されている)の場合もそうだが、ダニエルズ監督は自分の世界を表現するのにふさわしい題材を選び出していると思う。

彼が、ゲイであることをカムアウトしていて、子供の頃にインナーシティの低所得者向け公営住宅の黒人家庭でどんな体験をしたかについては、「レーガン時代、黒人/女性/同性愛者であることの痛みと覚醒――サファイアの『プッシュ』とリー・ダニエルズ監督の『プレシャス』をめぐって」のなかで触れた。

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