ダニエル・ネットハイム 『ハンター』 レビュー

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広大な自然の中で
真のハンターとなった男の物語

ダニエル・ネットハイム監督の『ハンター』の主人公マーティン・デイビッドは、レッドリーフ社から請け負った仕事を遂行するためにタスマニア島を訪れる。単独行動を好む彼は、奥地へと分け入り、黙々と作業を進めていく。彼がベースキャンプにしている民家には、母親のルーシーと、サスとバイクという子供たちが暮らしている。奥地とベースキャンプを往復する彼は、この母子と心を通わせていくうちに、自分の仕事に対して疑問を覚えるようになる。

しかし、マーティンを変えていくのは、決して純粋な心や家族の温もりといったものだけではない。この映画でまず注目しなければならないのは、余計な説明を削ぎ落とした表現だろう。

たとえば、マーティンという主人公は何者なのか。これまでどんな人生を歩んできたのか。どんな仕事をこなしてきたのか。なぜ人と関わることを避けようとするのか。あるいは、なぜバイク少年は言葉をまったく発しないのか。喋れないのか、喋らないのか。父親のジャラが行方不明になってからそういう状態になったのか、それとも以前からそうだったのか。この映画はそれをあえて説明せず、私たちの想像に委ねようとする。

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『崖っぷちの男』 劇場用パンフレット

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高所の臨場感と先の読めないサスペンス、7月7日(土)公開

ニューヨークのルーズヴェルト・ホテルにウォーカーと名乗ってチェックインした男が、部屋の窓から壁面の縁に降り立つ。地上60メートル、幅35センチの崖っぷち。男に気づいた通行人は自殺志願者だと思い、マスコミが駆けつけ、警察が道路を封鎖する。しかし男にとって、その場所に立ち、自殺志願者を装うことは周到な計画の一部に過ぎなかった。

“崖っぷちの男”を演じるのは、『アバター』のサム・ワーシントン。彼が指名する交渉人リディアにエリザベス・バンクス。ポール・ハギスの『スリーデイズ』にこの作品と、ここのところ存在感を放つようになってきた。『ハンガー・ゲーム』にも出ているし。『ジェーン・エア』の演技が記憶に新しいジェイミー・ベルが、お色気ムンムンのジェネシス・ロドリゲスとのコンビで、まったく違ったキャラを演じている。エド・バーンズもリディアの同僚役でなかなかいい味を出している。

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テイト・テイラー 『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』 レビュー

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ユーモアを織り交ぜて描き出される女性同士のホモソーシャルな連帯関係

『ハッスル&フロウ』(05)や『ブラック・スネーク・モーン』(06)などの作品で知られるクレイグ・ブリュワー監督は、メンフィスに暮らし、メンフィスで映画を撮る自身の活動を、“リージョナル・フィルムメイキング”、地域に密着した映画作りと位置づけていた。

『フローズン・リバー』(08)で注目を集めたコートニー・ハント監督は、メンフィス出身で、現在は東部を拠点に活動しているが、その感性は生まれ育った土地と深く結びついている。彼女はこれまでの短編や長編をすべてニューヨーク州のアップステイトで撮影してきたが、それは風景がテネシーの故郷に非常によく似ているからだった(コートニー・ハント・インタビュー参照)。

小説家やミュージシャンと同じように、南部出身の映像作家は、土地に特別な愛着を持ち、土地に深く根ざした世界を切り拓く傾向がある。ミシシッピ州ジャクソン出身のテイト・テイラー監督にとって『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』は、リージョナル・フィルムメイキングを始めるきっかけになった作品といえる。

彼はこれまで15年以上もニューヨークやロサンゼルスを拠点に活動してきたが、この作品をミシシッピで撮ったことが転機となって故郷に戻ってきた。そして、かつてのプランテーションを購入し、そこを拠点に新人の育成にも乗り出そうとしているという。

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