ヘンリー=アレックス・ルビン 『ディス/コネクト』 レビュー

Review

現代における他者との関係を炙り出すネット社会版『クラッシュ』

ヘンリー=アレックス・ルビンが監督した『ディス/コネクト』を観て、すぐに思い出すのはポール・ハギスの『クラッシュ』だ。クルマ社会における人と人の距離に着目することで、複数の人物が入り組むポリフォニック(多声的)な物語を巧みに構築していくのが『クラッシュ』であるとするならば、この映画はそのネット社会版といえる。

『クラッシュ』では、クルマをめぐる様々なトラブルを起点として、人種や階層に関わる溝が浮かび上がり、軋轢が生じ、悲劇に発展していく。登場人物たちは、目に見える他者の表層に対する先入観や偏見に振り回されることになる。


これに対して『ディス/コネクト』では、他者の存在ががらりと変わる。まず、他者は目には見えない。母親を亡くし、父親と二人で暮らす少年ジェイソンは、学校で浮いた存在のベンをからかうために、友人と結託してSNSで少女に成りすまし、孤独で純朴な彼の心をもてあそぶ。自分に好意を示す少女を信じてある写真を送ったベンは、それをネット上に公開されたショックで自殺をはかり、昏睡状態に陥る。

赤ん坊を亡くした喪失感に苛まれる主婦シンディは、チャットルームで同じような境遇の人々と交流していたことが原因で個人情報を盗まれ、銀行口座の預金をすべて奪われてしまう。

あるいは、逆に他者が見えすぎるということもある。野心家の女性レポーター、ニーナは、違法ポルノサイトで働く少年カイルと打ち解けあい、インタビューを取ることに成功する。しかし、二人の間の危うい信頼関係は、警察が動き出すことによって脆くも崩れ、彼女は精神的に追い詰められていく。

この映画は、単にネット絡みの事件を描いているだけではない。少女に成りすましたジェイソンは、似た境遇にあるベンの告白に密かに共感を覚えていた。違う出会い方をしていれば彼らは親友になっていたかもしれない。シンディの夫デレックは、犯人を突き止めるために危険な行動に出る。かつて兵士としてアフガニスタンとイラクに送られ、いまはオフィスで働く彼のなかには、満たされない感情が潜んでいる。

つまり、『クラッシュ』と同じように、事件を契機として登場人物たちの複雑な内面が炙り出されていくのだ。

(初出:「CDジャーナル」2014年5月号)