小林政広インタビュー 『日本の悲劇』
決めたことをやり遂げる人間、
日本の縮図としての小さな家族
仲代達矢を主演に迎え、老人と孫娘の絆を描いた『春との旅』(10)で数多くの賞に輝いた小林政広監督。新作『日本の悲劇』の主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子だ。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活している。自分が余命幾ばくもないことを知った老父は、自室を閉鎖し、食事も水も摂らなくなる。
「『春との旅』の後で、仲代さんからもう一本作ろうと言われていたんです。『春との旅』はこれまで自分が作ってきたものとは少し毛色が違っていて、それでわりと日本で評価されたので、どうせなら全然違うものをやりたい、また元に戻りたいと思っていました。そんな時に年金不正受給事件のニュースを見て、そんなことがあるんだとちょっと驚いたのが始まりです」
小林監督が触発されたのは、111歳とされていた男性がミイラ化した遺体で見つかった事件だが、そんな題材に対するアプローチが実に興味深い。リアルなドラマにしようと思えば、興味本位で見られかねない即身仏という要素は切り捨てたくなるところだが、それを中心に据えているのだ。
「即身仏になると言って部屋に閉じこもる男というのは、映画にしづらい話だとは思ったのですが、主人公を仲代さんに決めていて、仲代さんのことも調べていました。再放送された仲代さんのドキュメンタリーを見たら、仲代さんが亡くなった奥さんの遺骨を墓に入れずに部屋に置いて、毎朝、遺影と遺骨に「今日も行ってくる」と声をかけて舞台の稽古に出て行く。けっこう厭世的になっていた頃で、死ぬ時は一人がいいというような話をされていた。そういう姿と重ねてみたところもあります。それと仲代さんが強く思い入れているのが小林正樹監督の作品で、『切腹』などを見直して、決めたことをやり遂げる人間にしてみたらと思うようになりました。いまは一つの意志を持って生きている人が少ないので、そういうのもいいのではないかと」
さらにこの映画では、〝日本の悲劇〟というタイトルにも注目すべきだろう。自室に閉じこもった老父の脳裏には様々な記憶が甦るが、それらは東日本大震災や自殺、格差といった現実と深く結びついている。
「2010年の秋に最初の台本を書いて、これはものにならないと思ってほったらかしにしていたんです。ところが翌年に東日本大震災が起こって、無縁社会や孤独死などこれまで積もりに積もったものも含め、日本は終わりなのではという感じがした。それで3・11を契機に問題が噴き出し、破滅に向かう話なら映画になると思い、書き直しました。描いているのは小さな家族ですが、日本の縮図になっていればと思っています」
(初出:月刊「宝島」2013年11月号)
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