リドリー・スコット 『プロメテウス』 レビュー

Review

自然環境を変えうる大きな力を持つことにはプラスとマイナスの両面がある

リドリー・スコット監督の最新作『プロメテウス』は、2089年に考古学者エリザベスが、3万5千年前の洞窟壁画を発見するところから始まる。そこには星を指し示す巨人の姿が描かれていた。彼女は世界各地の古代遺跡からも見つかっているその巨人の図像が、人類を創造した“エンジニア”の痕跡だと考えていた。

その4年後、巨大企業が莫大な資金を投じた宇宙船プロメテウス号が、壁画に描かれた未知の惑星に到着する。そして、エリザベスを含む17名の乗組員は、想像を絶する真実を目の当たりにすることになる。

この映画は大きく分けてふたつの要素から成り立っている。まず、私たち現生人は必ずしも緩やかな進化を遂げてきたわけではない。


古人類学者リチャード・G・クラインが書いた『5万年前に人類に何が起きたか?』では、急激な知性の飛躍が以下のように説明されている。「四万年弱の間、文化的「革命」がかつてないほど次々に起こり、ヒトは比較的珍しい大型哺乳動物という立場から、自然環境そのものを大きく変える力を持つものとなった

この映画では、そんな人類進化をめぐる謎について、知的生命体による進化への介入という解釈が盛り込まれている。

もうひとつの要素は、おそらく映画を観ているうちに気づくはずだ。乗組員たちが発見する生命体のミイラ化した遺体や彼らを極限状態に追いやる異変。この映画の造形や物語には、リドリー・スコットが特別な愛着を持つ『エイリアン』のそれをなぞっているところがある。

では、ふたつの要素を巧妙により合わせた世界からは、どんな真実が浮かび上がってくるのか。それをここで明らかにするわけにはいかないが、筆者はクラインの前掲同書に書かれていたことを思い出した。

ヒトが自然環境を変えうる大きな力を持つことは発展に繋がるだけではない。データは同時期に数種の動物が絶滅に追いやられたことを示唆している。急激な知性の飛躍には、早い段階からプラスとマイナスの両面があった。

この映画の深みは、乗組員が目の当たりにする真実に、そんな視点が反映されているように思えるところにある。つまり、“エンジニア”という存在を通して振り返ってみたときに、果たしてこのようなかたちの進化を遂げたことが人類にとってプラスであったのかどうかわからなくなるということだ。

そして、映画のラストが含みを残すだけに、続編が観てみたくなる。

《参照/引用文献》
●『5万年前に人類に何が起きたか? 意識のビッグバン』リチャード・G・クライン、ブレイク・エドガー 鈴木淑美訳(新書館、2004年)

(「CDジャーナル」2012年9月号、若干の加筆)