『コン・ティキ』 映画.com レビュー & 劇場用パンフレット

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ヘイエルダールの伝説の航海をいま映画化する意味とは

6月29日(土)から公開されているヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリ監督の『コン・ティキ』に関する告知です。「映画.com」の6月19日更新の映画評枠に、「「人間中心主義を脱却した未来」を見据えた冒険映画」というタイトルのレビューを、さらに劇場用パンフレットに、「自然と人間の関係を問い直す伝説の航海」というタイトルのコラムを書いています。

ノルウェーの人類学者ヘイエルダールが成し遂げた伝説の航海には大いなるロマンがありますが、もしそれをリアルに再現しただけの映画であれば、筆者はそれほど心を動かされることはなかったでしょう。

ヘイエルダールがコン・ティキ号で大海原に乗り出した1947年から現在までの間に、自然と人間の関係は大きく変わりました。この映画は、そんな時間や変化を踏まえたうえで、伝説の航海を現代に再現していると思います。

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『オン・ザ・ロード』 『コン・ティキ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『オン・ザ・ロード』 ウォルター・サレス

『セントラル・ステーション』『ビハインド・ザ・サン』『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス監督が、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を映画化した。

その導入部はひとつのポイントになる。映画は、サルの父親の死のエピソードから始まる。『オン・ザ・ロード』の1957年刊行版は妻との離婚から始まる。父親の死から始まるのは、ケルアック自身が手を加える前のオリジナル版(『スクロール版オン・ザ・ロード』として刊行されている)だ。

サレスはオリジナル版のほうにだいぶインスパイアされているように見える。それが父親へのこだわりに表れている。

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リドリー・スコット 『プロメテウス』 レビュー

Review

自然環境を変えうる大きな力を持つことにはプラスとマイナスの両面がある

リドリー・スコット監督の最新作『プロメテウス』は、2089年に考古学者エリザベスが、3万5千年前の洞窟壁画を発見するところから始まる。そこには星を指し示す巨人の姿が描かれていた。彼女は世界各地の古代遺跡からも見つかっているその巨人の図像が、人類を創造した“エンジニア”の痕跡だと考えていた。

その4年後、巨大企業が莫大な資金を投じた宇宙船プロメテウス号が、壁画に描かれた未知の惑星に到着する。そして、エリザベスを含む17名の乗組員は、想像を絶する真実を目の当たりにすることになる。

この映画は大きく分けてふたつの要素から成り立っている。まず、私たち現生人は必ずしも緩やかな進化を遂げてきたわけではない。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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