今週末公開オススメ映画リスト2011/02/24

週刊オススメ映画リスト

今回は『アンチクライスト』、『英国王のスピーチ』、『シリアスマン』、『世界のどこにでもある、場所』、『悪魔を見た』の5本です。

『アンチクライスト』 ラース・フォン・トリアー

この映画では、「人間」と「自然」(あるいは「動物」)が対置されている。人間は「歴史」に囚われている。映画の題名に関わるキリスト教も、魔女狩りも、セラピストの論理も歴史のなかにある。動物は歴史の外にあって、「瞬間」を生きる。私たちは、ある種の狂気を通して、動物性への帰郷を果たす必要があるのかもしれない。詳しいことは、2月19日発売の「CDジャーナル」2011年3月号掲載の『アンチクライスト』レビューをお読みください。

『英国王のスピーチ』 トム・フーパー

幼い頃から吃音というコンプレックスを抱え、人前に出ることを恐れてきた男が、様々な困難を乗り越えて国民に愛される王になっていく物語は感動的だ。しかし、この物語に深みを生み出しているのは、スピーチ矯正の専門家ライオネルの存在だろう。

このオーストラリア人は一見、とんでもなく型破りに見える。患者が王太子であっても往診を拒み、診察室に呼び寄せる。その診察では王太子と自分の平等を宣言し、王太子を愛称で呼び、喫煙を禁じ、プライベートな事柄を遠慮もなく根掘り葉掘り聞いてくる。

ジョージ6世が怒り出すのもいたしかたない。だが、ライオネルのやっていることは、型破りに見えても、理に叶っている。これまで王太子を治療しようとした専門家たちは、現在の彼の状態だけを確認して、それを無理やり矯正しようとした。しかしそれでは、心に起因する問題の根をたつことにはならない。

ライオネルは、王太子のありのままの姿を呼び覚まそうとする。そして、お互いをさらけ出せる対等な関係を構築していく。王太子が抱える問題を解決するためには、これ以外の方法はなかっただろう。だが、いくら理に叶っているとはいえ、それを実行するのには困難がともなう。ライオネルが王太子の信頼を得て、それを実行してみせるところに、この映画の深い感動がある。

『シリアスマン』 ジョエル&イーサン・コーエン

これまでコーエン兄弟の作品を楽しんできたファンは、この映画に戸惑いを覚えるかもしれない。コーエン兄弟はこれまで映画では、ユダヤ系としての彼らのバックグラウンドを前面に出すことがなかったが、この映画では物語にそれが明確に反映されているからだ。

しかし、ユダヤの文化や慣習がよくわからなくても、ひとつのことを頭に入れておけば、この映画を十分に楽しむことができる。詳しいことは、『シリアスマン』の劇場用パンフレット掲載の作品評をお読みください。

『世界のどこにでもある、場所』 大森一樹

大森監督がフィリップ・ド・ブロカの『まぼろしの市街戦』にインスパイアされて作った作品。寂れた遊園地と動物園で、精神科クリニックが患者たちのデイケアを行っている。だが、登場人物たちの立場が明らかになるに従って、正常と異常の境界が曖昧になっていく。

筆者がこの映画の試写を観た時、上映前に大森監督の短い挨拶があり、彼は全部を描いてしまわないのが映画だと語っていた。だからいろいろ自由に想像することができる。

この映画で筆者の想像が膨らんだもののひとつが、遊園地と動物園という舞台だ。このふたつの場所は、想像をたくましくすると、それぞれに現代を象徴しているように思えてくる。一方で私たちは、テーマパーク化が進む世界のなかに取り込まれつつある。しかし、異なる視点から見れば檻のなかに押し込まれ、一方的に与えられたものを消費しているだけでもある。患者たちは、そんなふたつの世界の狭間で、綱渡りをするように自分の居場所を探している。そんな図式が面白い。

2月19日発売の「キネマ旬報」2011年3月上旬号に、以前にも当ブログで予告した大森一樹監督のロング・インタビューが掲載されています。ぜひお読みください。

『悪魔を見た』 キム・ジウン

イ・ビョンホンとチェ・ミンシクが繰り広げる死闘。“復讐”を徹底的に突き詰めることによって見えてくるものとは。詳しいことは「映画.com」の『悪魔を見た』作品評をお読みください。

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