『キツツキと雨』 『ガザを飛ぶブタ』 『別世界からの民族たち』試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。

『キツツキと雨』 沖田修一

『このすばらしきせかい』や『南極料理人』の沖田監督作品。役所広司と小栗旬のやりとりがあまりに可笑しくて、観ているあいだに何度吹き出してしまったことか。引き延ばしたり、スパッと切るドラマの間やタイミングも絶妙で。

『南極料理人』は原作があったので、設定や人物の関係がいくぶん整いすぎているところがあったが、この新作は『このすばらしきせかい』をシュールに発展させた感じ。『このすばらしきせかい』の主人公の若者と叔父さんの関係が、駆け出しの映画監督と木こりの関係に引き継がれている。

沖田ワールドに欠かせない古舘寛治が今回は狂言回しのようなポジションを担い、『このすばらしきせかい』で古舘が占めていたポジションに役所広司が入っているのだが、これがまたはまっている。それにしても映画監督と木こりがこんなふうに結びついてしまうなんて、面白すぎる。

『ガザを飛ぶブタ』 シルヴァン・エスティバル

パレスチナ人とイスラエル人の間にベトナムからやって来た一匹のオス豚を放り込むだけで、紛争、政治、経済、宗教から個人的な感情まであらゆる要素をあぶり出し、異化してみせる手腕に脱帽。エスティバル監督が、紛争の当事者ではなく、パリやウルグアイで活動してきたジャーナリスト、カメラマン、作家であること、そのアウトサイダーの視点と距離が最大限に生かされている。

オス豚から精液をとるためにメス豚のピンナップを作ったり、イスラエル人兵士がリュウマチの特効薬と思い込んで精液を飲み、プラシーボ効果を発揮してしまうというようなエグいエピソードまで盛り込まれているのに、作品のレベルやクォリティを維持しているのは、視点がしっかりしている証といえる。

『別世界からの民族たち』 フランチェスコ・パティエルノ

移民をめぐる問題をユニークな発想で痛烈に風刺したイタリア映画。イタリア北東部のある町で、工場を経営し、相当な偏見を持つ町の実力者が、人種差別丸出しのテレビのショーで本音をぶちまけた翌朝、アフリカ系の移民たちがすべて忽然と姿を消してしまう。まさに実力者の思い通りになったわけだが、労働者を失った町の機能は完全に麻痺して…。

筆者は、「CDジャーナル」の『ゴモラ』のレビューや当ブログの『ゴモラ』のすすめ+ロベルト・サヴィアーノで、イタリアの南北問題を取り上げたが、この映画でも移民だけではなく、南への偏見を垣間見ることもできる。

●amazon.co.jpへ