ウェス・アンダーソン 『ムーンライズ・キングダム』 レビュー

Review

決して取り戻せない時間
もはや存在しない場所

ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』では、12歳のサムとスージーの逃避行が描かれる。映画の舞台は、1965年、ニューイングランド沖に浮かぶ全長26kmの小島・ニューペンザンス島だ。

裕福ではあるが、厳格な父親や身勝手な母親に反感を覚えるスージーと、里親に育てられる孤児で、ボーイスカウトで仲間外れにされているサム。それぞれに孤立するふたりは1年前に偶然出会い、文通で親しくなり、駆け落ちを決行する。それに気づいた親や警官、ボーイスカウトの隊長と子供たち、福祉局員が追跡を開始するが、島には嵐が迫っている。

これまでウェス・アンダーソンの作品にはいまひとつ馴染めないところがあったが、この新作には冒頭から引き込まれ、心を動かされた。

緻密に作り上げられたセットや計算されつくしたカメラワーク、多彩で効果的な音楽、簡潔で洞察に富む台詞、ユーモアを散りばめたドラマなど、一見これまでと変わらないアンダーソンのスタイルのように見える。だが、そうした細部と全体の関係が違う。

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